ドイツ時代

笠井瑞丈

小さい時に過ごした
ドイツ時代をよく思い出す
たった五年という時間だったが
私のカラダの半分の時間は
この五年間が占めている
それは時間が進んでも変わず
むしろ大きく膨らんでいく

空気の匂い
マチの匂い

空の色
街の色

西も
東も

毎日一時間かけて
市電を乗り継ぎ
学校まで通った

山を下り
山を登る

いつも市電の窓に貼ってある
優先席専用のシールを
眺めるのが好きだった
不思議な感覚だ

優先席の絵の中にまた
優先席の絵が書いてある

優先席の中に
優先席が有り

またその中に
優先席があり
またその中に
優先席がある

小さい私はいつも不思議に
そのシールを眺めていた

どこまで続き
どこで終わる

三面鏡の中に頭を突っ込む
きっとこの中に宇宙がある
小さい私はそう考えていた

学校通いは
行きは
三兄弟三人
帰りは
ひとり一人

ポカポカ陽気の市電の中
ウタウタ睡魔が襲ってくる
気づくと深い眠りに落ちてしまう
ある日起きたらまったく知らない街に
それは全く違う国に着いてしまった
小学校低学年の私は
もう二度と戻れない
不安と恐怖に襲われた

バス停程度の駅
閑散とした通りにベンチひとつ
そのベンチに座り一人佇んでいると
まったく知らないお婆さんが声をかけてくれた
どこに住んでいるかを伝えたら
お婆さんが僕を家まで送ってくれた

あのお婆さんがいなかったら
あのお婆さんがいなかったら

今も一人知らない世界を
彷徨っているのかもしれない

シュタイナー学校
ちょっと変なところ
そんな気分の学校生活

大勢いる
ドイツ人
の中一人
アジア人

校内サッカー禁止
サッカー王国なのに
いつも不思議に思った
校内でボールを蹴ってると
すぐにボールは没収される
これがシュタイナー教育か
小さい私はそう思っていた

よく三兄弟公園でサッカーをした
木と木の間をゴールにして
ベンツというゲーム

ドイツ時代

いつも見守る空があった

父母三兄弟五人
五年間ドイツ生活

またいつか五人で
そして次はプラスα
また行こうと思う

じかんの中にじかんが
カラダの中にカラダが

ある