四月バカ★36

北村周一

犬とゆく秋の日光二泊ほど
 ラクは月よりパンを喜ぶ
曼珠沙華花なき茎をみず垂れて
 母はシングル・マザーと呼ばれ
漁師町に寺々数多梅雨の入り
 歩いたあとに蝸牛歩む
目に見えるもののみに語る不自由よ
 グループ展の初日を酔いぬ
キッスまでのタイミング推し測りながら
 波止場の道を照らす灯台
父が買ってくれた英雄インク出ず
 ペンには小さくmade in china
雪面に旗立て直す月の夜
 アポロ計画熾火のごとも
飛ぶ鳥の耳の背後に気圧無し
 引力だけが滅びを告げる
花見してはじめての子を産みに行く
 橋のうえから手振る四月バカ
暖かや絵の具ふみたる土踏まず 
 朝のうんどうアトリエ前の
愛用の撫刷毛は純馬毛にて
「賢い馬は孤独を嫌う」
遠雷やひとに父あり母のあり
 二物衝撃レーザービーム
ゆめさめてまつおかさんの家のまえ
 歩いても歩いても六歳のぼく
ゆうぐれの雨のネオンの裏通り
 情事の前の顔なきおんな
月連れて七夕竹をくぐりゆく
 祭りのあとの物売りの声
コスモスを折りゆく子らは塾帰り
 宇宙人襲来セリと脅す
ヴェランダに籠を吊るせばメジロ鳴き 
 うららかに父の声あり若し
かぜにのりはなびら散らす丘の上 
 好きとは言えず揺らすふらここ

*擬密句三十六歌仙秋の篇。夏の終わりに。