むもーままめ(9)怠け者メガネの巻

工藤あかね

ここ数年で急激に視力が落ちたことを実感している。とはいえ、みすみす放置していたわけではない。コロナ禍で世界中が憂鬱になる前には、意を決してちゃんと眼科にも行った。

さまざまな検査を受けた後、医師が少し申し訳なさそうに言ったっけ。

「おそらく若い時から、とても視力が良かったと思うんですね。それで今は、文字がぼやけて見えることがあるということですが…。視力だけいうと、両目とも1.5ありますので全く問題がないんです。おそらく、見えにくいのは手元とか、近いところでしょうか。まずはこちらのメガネをお試しください」

サンプルでずらりと並んでいたのは、おしゃれな色合いの老眼鏡である。つまり私の視力悪化は、老眼だったことになる。観念しておしゃれ老眼鏡をかけてみたところ、たしかに文字は見えやすくなったので、購入して帰った。

ところが、おしゃれ老眼鏡をかけてみても、目の疲れは日に日に増すばかりなのである。コロナで外出を控え、楽譜を読んだり本を読んだり、ネットをさまよったり、視界の狭い生活をしているうちにとうとう、目の疲れが頭痛や肩こり、首の痛みにまで発展していった。そして、ある朝、薬指と小指がしびれて動かすのが難しくなり、料理中にフライパンを握っていられず落としてしまった。

その翌日は衣服の着脱も、バッグから交通系ICカードを取り出すのも時間がかかり、仕事に遅刻した。到着した先で事情を説明したところ、脳の病気だといけないから一刻も早く病院へ行くように勧められ帰宅させてもらった。家で待ち構えていた夫が青ざめた顔でタクシーを呼び、病院へ。

結論から言うと、2週にわたる精密検査を受けた結果、脳にも骨にも大きな問題はなかった。

となると、この痛みやしびれの原因は一体なんだ?もしかして本や楽譜を読んでいる時の首の角度が前傾していて、目も首も肩も必要以上に負担がかかっているのではないか?

これまでにストレートネック解消まくらはいくつも試したが。きわだった効果は得られなかった。
書見台も愛用しているがそれでも視線はまだ低く、首が正しい状態になっているとは言い難かった。

そんな時に、ネットの神様がおりてきて、わたしをアマゾン奥地へと誘ってくれたのである。そして出会ってしまった。

………怠け者メガネ!!!!

これは予想以上にすごい商品である。メガネ前方が大きく突き出した形で下方にレンズがついていて、メガネをかけると首の位置の90度下が見えるようになっている。つまり、首の位置と目の向きが正面の時に、足元が見える。

一般的な活用方法としては、メガネをかけて仰向けに正しく寝転がり、お腹の上に本や楽譜などを置く。姿勢が崩れない上に驚くほどちゃんと読める。テレビを足元に向けて寝れば、夕方の大相撲中継も、昼寝の体勢のまま余裕で見られるのがありがたい。お腹の上にスマートフォンを置いて操作することだってできるから、万が一、コロナやその他で自宅療養や入院生活になったら、すごく重宝するのではないか。

さらに、PCを操作する際にもこまめに怠け者メガネをかければ、首の位置は正しく保たれ、姿勢もくずれにくいときている。ここ数日、隙あらばこのメガネをかけてことに当たっているのだが、不思議なことに眼の調子まで良くなってきた気がする。こんなに素晴らしい商品だから、もっと知られても良いと思うのだけれど。

まあ、見た目がちょっとばかり奇異なことと、長時間かけるには重くて、鼻の上部にメガネの跡がついてしまうのが難点ではある。だがメリットとデメリットを天秤にかけると、私にとってはメリットの方が多い。しばらくは怠け者メガネの普及活動をしようかな。