ジョージアとかグルジアとか紀行その1 世界最古のワイン国

足立真穂

「世界でいちばんワインを飲むのはどこの国だと思う?」
「え? フランス?」
「違う違う。アメリカ。じゃあ、いちばん古くから作っているのは?」
「エジプト、とか?」
「違う違う。グルジア!」
グルジア、ってどこだっけ? 旧ソ連、コーカサス、栃ノ心(とちのしん)。あ、黒海も。ってことは黒海沿岸の国なのかな。

「グルジアって、国名を最近ジョージアに変えたんだけど、世界でいちばん古くからワインを作ってるんだって」。

へえ、そうなのか。聞けば紀元前8000年までさかのぼるそうな。その時代の土器からぶどうの種が見つかっているのだ。少なくとも紀元前6000年に作っていたのは確実のようだ。古代エジプトでワインが作られたのは紀元前4000年末期なので、ジョージア(グルジア)は相当に古いということになる。

ちなみに、ジョージアは古くから作っているだけで、世界でいちばんワインを消費しているわけではない。消費国で言えば、1位アメリカ、2位フランス、3位イタリア、以下ドイツ、中国と続く。日本はやっと16位で顔を出す程度だ(the wine institute,2015)。一方で、一人当たりの消費量でいえば、1位はアンドラ公国(スペインとフランスの間)でワインボトル約76本分(日本は年間一人当たり4本)、2位はバチカン市国、3位はクロアチア、……でアメリカは55位で一人当たり1本。国別だと順位はある程度人口に比例するといえそうで、やはりヨーロッパを中心にしっかり飲んでいる人は飲んでいるということか(数字は「デイリーテレグラフ」2017年2月17日記事より)。

そうして意識をし始めると、大してワインに詳しくもないのにジョージアワインが気になり始める。そしてそのうちに、ジョージアという国の名前がどこにでもチラついてくる。調べてみれば、古い文明がドシドシ交錯していたであろう「コーカサス」にあり、国境を接する国は、トルコ、アルメニア共和国、アゼルバイジャン共和国、タゲスタン共和国、チェチェン共和国、ロシア連邦、など。「コーカサス」は黒海とカスピ海の間の、コーカサス山脈を囲んだ一帯をさすそうだ。フライトを調べてみると日本からの直行便はなし。外務省のサイトを見ると在留邦人数は45人。少なっ!

マップラバーなので、コーカサスの地図を見ているだけで盛り上がってくる。オリンピック(2014年)のあったソチは黒海沿いに南下すればジョージアまですぐだ。このあたりは、モスクワなどからもリゾート客がやってくるらしい。

ここでデータをインプットしておこう。たとえば日本と比較すると、国の全体像を把握しやすい。最新と思われるデータを拾うと、1991年のソビエト連邦崩壊で独立したジョージア、その面積は日本の約5分の1で、人口は390万人(2017年、国連人口基金)だ。その多くがキリスト教(ジョージア正教)を信仰している。首都はトビリシで一人あたりのGDPは4086米ドル(世界113位。日本は38449米ドルで25位。2017年、IMF)だ。失業率は11.8%(2016年)と、決して低いとはいえない状況だし、産業は鉱業、農業といったところで、隣のアゼルバイジャンなどと違って石油は出ないこともあり、お金を潤沢に持っているとは言いがたいような。

2015年と最近になって、「グルジア」から「ジョージア」へと日本での呼称を変えた背景には、ジョージアの親欧路線に対してのロシアの牽制、2008年のアブハジアや南オセチアといった土地をめぐってのロシアによるジョージア侵攻、それに伴う経済制裁があるのだろう。国名を「グルジア」とロシア語読みするのを嫌う人が増えたから、と私は旅先で聞いた。当時は、一説によるとロシア軍は首都トビリシまで迫ろうという勢いだったそうだ。そんなことからたった10年しか経っていないとは。

内戦のことは、北西部のスヴァネティに旅する道中の車中から、その前線となった街の一つを見ることができた。ソ連時代の共産主義的モニュメントが街の中心広場を覆い、ソ連時代に建てられた建物の空き家が目立ったのは気のせいだったのか。

さて、2013年には「クヴェヴリ・ワイン」という伝統的なワインの製法が、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されている。和食やフレンチ料理が登録された、あれだ。なにしろ、地中に埋めた素焼きの壺にぶどうジュースを注ぎ込み、そこで発酵させてワインをつくるのだという。この土地への好奇心は決定的になるというもの。

「ジョージアは、ワインと相撲、これに尽きる!」
こう喝破したのは、その1年半後に出かけたジョージアを案内してくれたニアさんだった。彼女は、ジョージア西部で「クヴェヴリ・ワイン」を手ずから夫婦で作っているワインメーカーだ。おそらく日本人サービスを多少含むにしても、ワインを作る前はトビリシで教師をしていたという彼女の説明は簡潔だ。

もともとジョージアでは、モンゴルと同じでレスリングが盛んで全国大会も開かれるほど、スタイルは違うにしてもレスリング自体が人気競技なのだ。だから、あの「ヘアスタイル」や「巻いているもの」には驚いたそうだが、黒海や栃の心の活躍が我がことのように嬉しいのだという。

ワインは、といえば、これは話が長くなる。ニアさんのところで見たぶどう畑、製作現場、ワインの味を次回は紹介していこう。(つづく)