長男の立場

北村周一

 長子偏愛されをり暑き庭園の地(つち)ふかく根の溶けゆくダリア  塚本邦雄

ちょうなん【長男】最初に生まれた男の子。長子。総領。嫡男。
辞書を引けば、こんなふうに出てくるが、もうお馴染みのことばだから、それほど注意しなくても、ああそうだよねって、納得してしまうんだよね、きっと、たぶん、やっぱり・・・。

同じく、塚本作品から、
 父とわれ稀になごみて頒(わか)ち読む新聞のすみの海底地震

長男とかぎらなくても、父と子のあいだには、怖れというか、隔たりというか、特にオトコの子には、なんらかの(得もいわれぬ)空間(空気)が存在する。

同じく、塚本作品から、
 うす暗くして眩しけれ父と腕触る満開の蝙蝠傘(こうもり)の中

つづいて、岡井隆作品からふたつ、
 風道に紅顔童子立てりけり髪を率(ひき)ゐて佇(た)てりけるかも
 歳月はさぶしき乳(ちち)を頒(わか)てども復(ま)た春は来ぬ花をかかげて

  * *

つらつらと思い出すまま、塚本さんと、岡井さんの短歌をいくつか引用してみたけれど、現在目の前で起きている事件は、なんとも不可解でおぞましい。

 軽いノリで
 父の話芸を
 真似ることも
 別人格とう
 語彙の貧しさ
~父は「令和おじさん」とも呼ばれていた

 父母の期待
 一身に受け
 まなび舎に
 男子つどえば
 長男ばかり
~次男三男は、数が少ない

 左を見て
 右見て前に
 進まんに
 手取り足取り
 父がみちびく
~まずは秘書官になりなさい

 無職子の
 長子溺愛
 その父が
 授けたまいし
 総務のオキテ
~コネがすべて

 長男の
 立場たびたび
 悪用し
 歪められたる
 国家の大事
~恐怖政治のゆくえ

 棄てられて
 はじめて気づく
 人格の
 それより暗き
 血のいろの濃さ
~蔓延る二世議員たち

 これ以上
 ぼくの時間を
 奪わないでと
 いいたげに
 終わる会見
~説明責任果たさぬ人ら

 歳取ると
 そとを見ること
 多くして
 テレビの函も
 窓べのごとし
~国会中継をさぼるNHK