むもーままめ(6)自動筆記の巻

工藤あかね

パソコンに向かい外から聞こえる車の音はうるさく集中すると聞こえなくなるのあらどうしてだろうと思うけれど隣の部屋でオンライン授業をする声が聞こえて人の歌声が聞こえて訓練されていない声の美しさに聞き惚れたら空が青いだろうと思って外を見たら雲が薄くしか浮かんでいなくてつまんないなもっと強烈なやつが欲しいと思ってぼんやりとしたものより極彩色のアートが好きで渋谷の雑踏のモニターを見たら心が落ち着かなくてなにがビビッドかわからないところに冷麺が急に食べたい陽気だと言うことはやっぱり季節はめぐってきてなぜ冷やし中華ではなくて冷麺なのかと思うと私にも選択肢が増えたなと思って買い物かごの中身をみたら野菜がたくさんあったから野の植物に触れたい動物と触れ合いたいけれど水族館はつるつるしているからもふもふした匂いのするところに行きたいけれど電車ではなくてカゴに入れて箱に入れられてAmazonで知らない人の玄関先に届けられたいそうしたら開けた人が驚いてクレオパトラみたいだねって言ってなんで絨毯入っていないのこれじゃびっくり箱だねと言ってそれではかなり格が落ちるねベランダのジョウロがこっちむいていて水がはいっていないのに水なんかいつでも出してやるぜと言う顔しているのがなんだか生意気で白いジョウロの向きを変えたいけれど窓を開けるのも面倒くさいから念だけで方向変わらないかなととしばらく念を送ったけれど動かなくて私も力が落ちたな緑の葉っぱはこっちむくと太陽のパワーもらえないから向こうむいていていいよがんばれ遠くの背高のっぽのクレーンは今日も働いているなんのために誰のために桜の木の上に生えてる赤いカニの足空に飛んでるやじるしは右から左へあれは宇宙からのメッセージが届いているの灰色だから白い背景には目立ちにくい路地の影なら影は青色と赤色でネオンの名残が朝には消えてもうそんな街はしばらくないからかわりに地面に座って飲み明かした若者の気配が残る空き缶と日の出まで付き合わされてドクターペッパー飲んでいた若者の本当は水でも良かったのに薬草が手に入らなかったから河原に行って片っ端からよもぎを摘んで魔女のやりかたを想像して鍋で煮てみる生き物を入れるのはかわいそうで嫌だから自分の指をお湯にひたしてどうにかならないか企んだけれどやっぱりなんの魔力もなかった人間だから知らないでいいことたくさんあるしできなくていいことたくさんあるしそのほうがもしかしたら神様から見て可愛げがあるかもしれないのだからできないことを誇りに思う今日はいちにち窓際で昼寝をしたいし気が向いたらぼんやり本を読んで寝っころがって天気がいいのに洗濯もしないで怠惰の権化になりたい