アジアのごはん(96)腸内細菌にゴハン!その2

森下ヒバリ

前回、発酵食品などの有用菌を食べるだけでなく、自分のお腹の腸内細菌たちにゴハンを与えることが実はとっても重要、という話を書いた。腸内細菌たちのゴハンは食物繊維である。発酵食品だけをたくさん食べていても、腸内細菌は実はあんまり喜んでくれないのだった。ええっ。むしろ食物繊維を食べることのほうが、重要だったのですね。そして、食物繊維と有用菌をたくさん含む発酵食品を一緒に食べると最強である、と。

今回はその実践編です。
野菜をある程度食べていれば、非水溶性の食物繊維・セルロースは充分に取れるが、水溶性の食物繊維の方が不足しがちだ。腸内細菌には水溶性食物繊維が重要なので、こちらは意識的に食べる必要がある。

水溶性食物繊維を豊富に含むものは、海藻類、きのこ類、果物、豆&ナッツ類、ねばねば野菜、ゴボウ、イモ類、納豆、オートミールなどがある。イモ類でもキクイモはイヌリンが突出して多いし、ラッキョウやゆり根、エシャロットなどの鱗茎類は非水溶性食物繊維よりも水溶性食物繊維の方が何倍も多い稀有な存在だ。豆類は、豆腐に加工すると食物繊維はがっくり減ってしまうので、なるべく豆の状態で食べたい。

食物繊維は、適量を、毎日がのぞましい。食物繊維を含む食べ物は、できるだけいろいろな種類を食べるのがよい。でも、野菜や海草で毎日の必要量を満たすのは、なかなかむずかしいし、あ~今日は食物繊維食べてない、ということもままある。大腸の腸内細菌たちは、自分でエサを探しには行けないので、宿主のワタクシが食物繊維を食べてくれるのをじっと待っているしかない。あ、今日は野菜少なかった~~テヘッ、でワタクシは済むが、腸内細菌は飢えて、力を失くしていくのですよ。

そこで、食物繊維が豊富な食材を作り置きにするのだ。まずは炒り豆である。大豆を一晩水に浸して、さっと熱湯をかけてから乾かし、フライパンで炒る。‥なかなか大変だ。30分ぐらい炒って、なんとかサクッとなった。塩も何も味付けしないで、食べる。インレー湖で食べたほどではないが、いや~同じくらいウマイ! 相方とポリポリ食べていたらあっという間になくなった。あ、あんなに苦労したのに~!

ちょうど、青大豆(山形秘伝豆)を入手したので、また炒り豆にしてみた。う~ん、これもおいしい。やはりすぐになくなってしまう。わたしが求めているのは、毎日少しずつ食べていける、常にテーブルの上に乗っている炒り豆だ。そうなると、3日に一回ぐらい炒り続けなきゃならないの?

そうだ、青大豆なら簡単なひたし豆がいい。ひたし豆は山形や福井などの郷土料理だ。ようは、茹でた青大豆を醤油だし汁に浸して味をしみこませたもの。秘伝豆は、一晩水に漬けておき、沸騰したお湯に入れて5~6分で茹で上がる。大豆の若い豆である枝豆に似て青いけど、ちゃんとした成熟した豆。なのに、こんなに簡単に煮豆が作れるとはすばらしい。普通の黄色大豆より油分が少なく、糖分が多いのが特徴だ。タンパク質の量は同じぐらい。食感はちょっと歯ごたえがあって枝豆みたい。まあ、長く煮ればやわやわにもなりますが。

やや固めに茹でた豆を、醤油だし汁に浸す。1日置いて食べてみると、うん、おいしい。おいしいが・・何か足りないような。ふ~む。これ、ポン酢みたいな味の方が合うんじゃない?漬けていた醤油だし汁を半分捨てて、そこにポン酢を投入。ちょっと鷹の爪も入れておこう。もう1日置いて、出来ましたポン酢ひたし豆! 少しずつ小皿に盛って、酒のつまみにぴったり~。

浸しておく漬け汁は、あまり濃くなり過ぎないように。もちろん、市販のポン酢を半分ぐらいに水でうすめたものでもいいし、自分で好みに調合してもいい。新たに作るとき、ヒバリはあまり酸味の強くない自家製のマコモ酢でポン酢を薄めてみた。醤油だし汁のひたし豆よりもポン酢ひたし豆の方が、ずっと保存が利きます。角切り昆布を少し入れ、赤唐辛子も一本。豆の和風ピクルスとでもいいましょうか。もちろん、洋風ピクルスにしてもおいしいです。

青大豆にも色々種類がある。種類によって茹で時間も違うようだ。今回使ったのは山形おきたま興農舎の無農薬・秘伝豆。ここの青大豆はすばらしい味。まとめて注文するためにHPを見たら、炒り豆も売っているではないか、さっそく注文。食べてみると自分で炒るほうがやはりおいしい・・がこれも十分おいしいので、気に入っている。これだと、テーブルの上に置いておいても食べすぎないのでちょうどいい。

黄色い普通の大豆の炒り豆や煮豆も試してみたが、やはりわたしには青大豆が身体に一番あっているようである。もともと黄色い大豆は苦手で、煮豆は身体が受け付けない。でも青大豆ならいくらでも食べられるのだ。

人はそれぞれ、大腸の中の腸内細菌の種類や分布状態が異なっていて、また変化もしていく。食物繊維といっても、色々な種類があり、それをエサにする菌がいるかいないか、または十分な数がいるか、ということも重要なのだ。たとえば、たいがいの日本人の大腸には海藻の食物繊維を消化する腸内細菌が住んでいるが、歴史的に海藻を食べてこなかった民族の大腸には住んでいない。だから、そういう人がいきなり生の海藻を食べると、消化不良を起こしたり、お腹がパンパンになって苦しんだりする。

なので、色々な種類の食物繊維を食べて、自分の身体に合った食材を見つけるのがいい。ゴボウが好きだったら、きんぴらを常備菜にして毎日少しづつ食べてもいいのである。キクイモやヤーコンが好きなら、これをピクルスにして毎日食べるのもいい。食べる有用菌も同じで、単一菌種のヨーグルトよりも多種の菌が入っている自家製がいい。そして、有用菌と食物繊維を組み合わせると効果倍増。ヨーグルトには、バナナをトッピングとかね。でも、果物は糖分もかなり多いので少量にしておきたい。また、きのこ類も今の日本ではあまり食べない方がいいでしょう。

しかし、食物繊維を食べていると、やっぱりオナラがよくでてくる。食物繊維を食べると腸内細菌は短鎖脂肪酸などのエネルギー源やさまざまな酵素、ホルモン前駆体などなど体に必要な物質を作り出してくれるのだが、水素とメタンガスも作られる。そう、水素とメタンガスがオナラちゃんになって出てくるわけだ。これは困ったなあと思う人は多かろう。とくに会社員とか接客業とか困るよね。

食物繊維を食べ続けていくと、収まってはくるのだが、あまり食べてこなかった人は腸の中で大掃除が始まるので、おどろくほどオナラが出ることもある。ここで、やめてはいけない。食べる量を少しへらして様子を見ましょう。肉ばかり食べていたら出てくる、悪臭の腐敗オナラとはぜんぜん別物なのだ。なんといっても、水素ですから。水素はもちろん外に出るだけでなく身体にも吸収されていて、活性酸素を退治して、酸化した細胞を還元してくれているわけですよ。高い水素水を買っている場合じゃないのだ。そう考えると、おイモを食べすぎると出てくるオナラちゃんもありがたいものに思えてくる。

食物繊維は少しずつ、毎日食べるのがいい。でもこの年始年末、たっぷり食べて腸の大掃除をしてみるのもいいかもしれない。