多可乃母里(たかのもり)

時里二郎

  1

わたくしは この子の人形
この子に庇護されているゆえに
この子を庇護せねばならぬ
声の無いこの子が ただひと口
わたくしの口の端(は)に語らせる
 takanomori
それも 唇(くち)を動かさずに
わたくしの口に言わせる傀儡(くぐつ)のわざを
どこでさらったのか

 takanomori
これがわたくしの名なのか
この子にそう呼ばれているように聞こえるが
兄だか弟だかわからぬ男の子が
この子に呼びかけるのも
 takanomori
この子の名ではないにしても
この子の呼び名か

takanomori
この子は そのひと口しか
ことばをこぼさないのだから
男の子も
takanomori
そうかえすしかないのだが

  2

この子に母がいないわけを
わたくしは知らない
父はいるが いつもにぎやかな団欒に紛れるように
この子がいるのだかいないのだかわからぬようすで
この子とふたりでいるところを
わたくしは 見たことが無い

この子の家族は父とこの子と男の子の三人だが
家には親密で思いやりの深い親戚や父のなかまが出入りしていて
いつも明るくて 
ことばがあふれている

それなのに
この子の世話を任されているのは
わたくしと
この子の兄だか弟だかわからぬ男の子だけ

タカノモリ 
男の子が呼びかけると
takanomori
この子が言わせて わたくしが
応じる