コトカタのはなし

時里二郎

空のうろこ
朝の椅子
うつばりのちり
弱起の月曜
寝癖のついた絵本
初号活字の鋳造マニュアル

指を折って
数え上げた言葉のちりを
コトカタに仕舞うのに
ギルシュは少し手間取った
それらがひかりのつぶでできていて
指のすきまから抜けてしまうのだ

ギルシュはいいわけのように
自分はひかりを乗り継いできたから
ひかりのこが 
こえにまざるのだと言った
・・・・・・・・・・・・

  *
コトカタは使いふるした蜜蜂の巣箱
名井島では島に流れ着いた「御用の済んだ人形」を容れておく
ギルシュが言葉のちりを運んできたコトカタには
ギルシュが入っている
コトカタの深い闇は 人形からひかりを吸い取って
ゆっくり ゆっくり 人形のからだを溶かしていくのだが
人形が人形でなくなるまでのあいだは
時折 島の猫が来て
カタコトとコトカタを揺すってやる
すると人形もカタコトとコトカタを中から揺すって応える
そうやって 島の猫は人形の話を聞いてやるのだ
ギルシュは とある小説に描かれたスフリスという街に棲む青年に愛玩されていた
島の猫は カタコトとコトカタを揺すっては
ギルシュの話をコトカタの闇から救ってやる

やがて
カタコトとコトカタを揺すっても
カタコトと返さない日がやってくる
それでも 島の猫は
コトカタをカタコトと揺すって
ギルシュのために
物語をかたりはじめる

   〜名井島の小さなお話〜から