みずのほとり

時里二郎

みずのほとり
草つつむ石のかみ
めはなもなく
なでられて 
さすられて
記憶のほとり
だれのてのひらも
ひからびて 空をすくえない

みんないなくなって
これからさきも
だれもやってこない

みずのほとり
草つつむ石のかみ
めもなく
はなもなく
なでられて
さすられて
記憶のほとり
だれのあしうらも
あおい空をふみしめられない

みずのほとり
草つつむ石のかみ

不意に 
ふるいひとのこえが
風のように
村の地図をよみあげる

せみはやし
とりなしやま
すくりす
たせ
あめやみ
がやがや

めもなく
はなもない
だれかのしるしのように

みずのほとり
草つつむ
石のかみ

(「名井島の雛歌」から)