ウッドストックから遠く離れて

若松恵子

BS世界のドキュメンタリーで「ウッドストック~伝説の音楽フェス全記録」が、全編・後編の2日にわたって放送された。ウッドストックから50周年の今年、2019年にアメリカで制作されたドキュメンタリーだ。ウッドストックのエッセンスを紹介する良い番組だった。

フェス開催の経緯、4人の若いプロデューサー、会場を貸した農場主、フェスを支えたホッグファームというコミューン、ステージの裏方の人たちが主人公だ。そして何より集まってきた人々、観客の表情がみんな満ち足りていて、おだやかで、魅力的で、引き込まれてしまった。おおぜいの人たちが会場に集まってくる風景に、観客としてウッドストックを体験した人たちの回想がかぶさる。

「自分と同じように感じている仲間を探していたんです」

「自分たちが目指してきたのは、こういう自由なんだと思いました」

「40万人集まって何の暴力もいざこざも起きなければ、ここでの愛を社会に持ち帰って世界を変えられると思いました」

最初にフェスが計画されたウッドストックでは、ヒッピーたちの暴動を恐れて周辺住民が反対し、開催できなくなってしまったという。

ウッドストックフェスティバルに会場を提供した農場主のマックス・ヤスガー氏が観客に向かって話をさせてくれと言い、舞台でスピーチする場面が出てくる。

「この町だけでなく、全世界にむけて君たちは大事なことを証明したのです。50万人が集まって音楽を聴いて3日間楽しく過ごせたということ。それを成し遂げた君たちに神の祝福あれ」と彼は語りかける。

そして運営者の回想が続く

「彼は怒ったりせず私たちを認めてくれました。農場はめちゃくちゃになったでしょう。でも保守的な農場主があんなふうに感じるのなら、それはすごいことです」と。

音楽を聴こうという単純な動機で集まってきた若い世代を受け入れてくれた大人もまた存在していたのだということがわかる。大人も大人らしかったなと思った。食料を分け合う、毛布を広げて身を寄せ合って雨をよける、ホッグファームが引き受けてくれた警備はユニークなもので、「こうしなさい」ではなく「こうしてくれませんか」というお願い隊だったという。

「何もないところにきちんと機能する街ができたようでした」という回想が印象的だった。

4日目の朝、最後の出演者であるジミ・ヘンドリックス演奏のアメリカ国家が会場に響き渡る。ロケット弾やミサイルが炸裂する音を再現したギター。「世界で最も平和的なこの集まりを彼はベトナムと結びつけたのです」という運営者の回想が続く。

音楽を聴いた人たちが自分の街に帰って、できたことは小さなことだったかもしれないけれど、人間はウッドストックのように平和に集い、暴動を起こさずに分かち合うことができるのだと思えることは希望があると感じた。