ハルカゼ舎の日めくりカレンダー

若松恵子

小田急線「経堂」駅前、すずらん通り商店街にある文具店「ハルカゼ舎」の日めくりカレンダーを愛用している。

タテ5㎝、ヨコ5㎝の正方形。日付の数字と英字で曜日と月が印字されているだけのシンプルなデザインだ。掌に乗る小さなサイズながら、十分な余白が白く、美しい。ハルカゼ舎のレジの横に置かれていたこのカレンダーを初めて発見した時には、まずこのデザインのしゃれた可愛らしさに魅かれた。日めくりであるのに場所を取らない小ささ、うすい紙質も良かった、出会ったのは残りの枚数も少なくなってきた11月あたりで、思わず「これください」と言ってしまったが、その年の物はとうの昔に売り切れで、翌年用が店に並ぶのを楽しみに待って買ったのだった。使い始めてもうずいぶん経つが、ハルカゼ舎お手製のこのカレンダーは今年で10周年になるらしい。

日めくりには、毎日小さな言葉が添えられている。例えば今年の12月1日は「コクトーのパーティーに招かれる日」だ。その日1日を占うコトバとして読むとおもしろい。ちなみに11月1日は「澄み切った朝に水星をみつける日」だった。ハルカゼ舎をひとりで(たぶん)切り盛りしている美しい店主が、日々書き留めて置いた言葉が、次の年の日めくりの言葉になっているようだ。

最後に10月分のページが沢山あまったので、10月1か月分が落丁した物を何セットか作ってしまったかしれないと店主が心配そうに話してくれた年があった。10月が消えてしまった年というのも想像してみると面白い。9月の最後の日をめくって、10月が無いと気づいた時に、怒る人と、笑う人と・・・。

その年、ちょうど日めくりを片岡義男さんにプレゼントして(いつも手ぶらの片岡さんにも、この日めくりならポケットに入るからと)このエピソードを話すと、10月が丸1か月無い日めくりというものをたいそう面白がってくれた。いつか物語の片隅に登場しないかなと密かに楽しみにしている。

今年もあと1か月。日めくりも残り少なくなってしまった。1年の日々の合計の枚数が最初にあって、それは1日1枚ずつはがされていく。いつのまにか1年だね、ということではなくて、確実に1枚(1日)1枚(1日)なのだ。毎日毎日きちんとめくらないのは、ずぼらだからというだけではなくて、もしかしたらこの1日1日減っていくというのが怖いからなのかもしれないな、と今思った。