パンクから音頭に至る

若松恵子

遠藤ミチロウのバンド「羊歯明神(しだみょうじん)」の活動を追ったドキュメンタリー「SHIDAMYOJIN」を新宿のK’Sシネマで見た。5/27~6/16までの3週間限定のロードショウだったのでもう終わってしまったけれど、どこかで上映の機会があったらぜひ見てほしい。

福島出身の遠藤ミチロウは震災後に支援活動を続けているが、仮設住宅に暮らすお年寄りの言葉を受けとめて盆踊りを復活する。盆踊り復活のなかで結成されたのが民謡パンクバンド「羊歯明神」だ。遠藤ミチロウとギターの山本久人、パーカッションの石塚俊明の3人組がパワフルに音頭を繰り出す。「音頭! いいじゃないか」と思ってしまう。音楽そのものに力があるのがまず良い。

「ソーラン節」は「騒乱節」になり、「小原庄助さん」は「おばかシンゾーさん」と唄われる。「安保も辺野古も原発だって根っこは同じだ覚悟しろチョイヤサエンエンヤー、サアノドッコイショ」と唄われれば、「ドッコイショ~ドッコイショ」と応えずにはいられない。

福島県いわき市の「志田名(しだみょう)」地区は、事故後に発見されたホットスポットで、若者たちが避難した後に残ったジッチやバッパ(浜通りの方言でお爺さん、お婆さん)が放射線衛生学者の木村真三とともに自分たちで放射能汚染地図を作成した地域だ。ミチロウは、そこで生きるジッチやバッパに敬意をもって「ありがたや志田名人(しだみょうじん)」と唄う。いも煮をバッパたちとつくる様子なども映画には登場していて、交わることがなかったはずのパンクロッカーと限界集落に生きる人たちが、原発事故に対する怒りをきっかけに絆を結んでいく様子が描かれていて、嘘のないその様子が心に残った。

民謡歌手の伊藤多喜雄がゲストに呼ばれ、盆踊りの櫓の上で唄う。さすがの声だけれど、ミチロウのわけのわからない音頭もまたお年寄りたちに受け入れられているのではないかと思った。おおらかに笑いながら、何かわけわかんないけど元気でいいじゃないかと櫓の周りをぐるぐる回るお年寄りの姿を見ていてそんなことを思った。

ヘリパッド建設に直面する沖縄の高江、愛知県豊田の橋の下音楽祭、若者も羊歯明神の音頭で踊る。「ザ・スターリン」時代の曲も音頭になって演奏される。原発の再稼働、共謀罪、許せない決定に対してどうやって嫌だと声をあげたら良いのか。盆踊りは解決にはならないけれど、率直に嫌だという声をあげる場になっている。どんどん渦が広がっていけばいいと思う。「王さまは裸だ!」と率直に叫ぶ、その子ども心がパンクだと思うけれど、ミチロウの音頭もブレずにまさにパンクでうれしい。「羊歯明神」はフジロックにも出るようなので楽しみだ。