江利チエミのサザエさん

若松恵子

日本映画チャンネルの蔵出し名画座スペシャルとして、江利チエミ主演のサザエさんシリーズ全10作品が、4月から順番に毎月1作品ずつ放映されている。ビデオ化されていない映画で、視聴者からのリクエストも多かったという。日本映画チャンネルの鳴り物入りのCMを見て、何となく4月の第1作を見てみたのだけれど、思いがけない面白さがあって、以降、毎月楽しみに見ている。

第1作は1956年製作の白黒だ。磯野波平が藤原鎌足、フネが清川虹子、ワカメが松島トモ子、ノリスケが仲代達也、「クイズグランプリ」で知っていた小泉博がマスオさんだ。もう少しあとの時代の彼らを子ども時代の私はテレビで見ているのだけれど、その時抱いてしまったイメージよりもみんな若くて初々しくて、そんな印象の落差もまた、この作品を面白いと感じた理由なのかもしれない。

江利チエミの生まれ年を確かめてみると、映画が作られた当時、彼女自身も20歳くらいでサザエさんと同年代だ。その後の彼女の不幸を知ると、この頃の彼女はスターとして輝きに満ちた順風満帆の時代だったのだと分かる。無邪気で曇りのないかわいらしさが映画を盛り立てている。歌う場面が必ず出てくるのだけれど、しっかりした大人っぽい歌唱力もまた魅力だ。清川虹子もやわらかい、娘をかわいがる母親として登場している。呼び捨てではなく「サザエさん」と呼んでいるのにびっくりする。波平もちっともカミナリおやじではない。その反面、カツオのいたずらは遠慮容赦なく盛大だ。自己規制しない、いたずら小僧で子どもらしい。磯野家の家族会議の場面が何回か出てくるのも新鮮だった。順番で議長を回していて、ワカメが立派に議長を務めていたりする。今のアニメのサザエさんは、波平が家長として仕切ってる感じがするけれど、藤原鎌足の波平は、こまった顔も平気で見せてしまう少し頼りない感じの父親で好感を持つ。戦後民主主義の影響が色濃いのか、磯野家のイメージは今とは違っている。

実写版なので、当時の東京の姿を見ることができるのも面白い。家のつくり、庭や垣根、舗装されていない道路、バス停、人々の髪型や服装、ご用聞きのサブちゃんの前掛けや自転車、デパート・・・。今は無くなってしまった良きもの達もたくさん出てくる。第10作が作られた1961年もまだ私が生まれる前だ。

8月に放映された第5作でサザエさんはやっとマスオさんと結婚した。マスオさんの故郷、北海道で結婚式をする事になり、北海道に出発する前夜、近所の人たちと祝いの宴をする磯野家のうれし寂しい場面で映画は終わる。部屋に掛けられた花嫁衣裳が写されるだけで、花嫁衣装を着た江利チエミに挨拶させたりしない演出がさりげなくて、しゃれているなと思った。シリーズものの宿命で、マンネリしていくのか、面白いまま走り抜くのか、来年1月まで続く放送が楽しみだ。