マグロの夢

三橋圭介

amazonやオークションで買い物をすることがけっこうある。
amazonはほとんど中古で買うことはないが、オークションは新品もあるが、基本は中古商品がメインだろう。
自分のオークションのやり方は決まっていて、買う金額を決めて入札し、最後まで見ない。
おおかた買えないだろうなと思っているし、買えないことが大半である。
そんなことなので、さほど必要がなくてもポチッとしてしまうこともある。
まあ、買えたらこんな値段で買えたのか、となるだが、そんなことがつい最近あった。
ローヴァーの折り畳み自転車(ギヤなし)を購入し、楽しく乗っていることは前に書いた。
いまもだいたい同じような道をくねくねとまがってさまよっている。
現時点では家を中心に4駅くらいの円を描きながらマグロの回遊をしている。
しかしこのマグロはこの周回から飛び出したいとも思っている。
だいたい一時間くらい乗っているわけだが、二時間くらい乗ってもいいかなと。
これには多少の冒険が必要になる。
「登り坂と下り坂は同じ道である」と賢人ヘラクレイトスは言ったが、この相対主義は私にはなかなかにして実践困難である。
なにせ登り坂から見える風景と下り坂から見える風景はまったく違って見えるのだから。
それはもはや同じようでまったく違う。
来た道はすでにはじめて見る道である。
一般化するなら方向音痴ということなのだろう。
いつもお店に入り、出る時は必ず左に曲がることが度々指摘されてきた。
それゆえ考えて右に行く(だめじゃん)。
こんな繰り返しで、いきてきた。
本題に入るなら、「海流を越えるマグロになるにはせめて6段ギヤのある自転車がいい」と感じていたわけだ。
そこですこし高級な自転車(ほぼ未使用)をポチッとしてみたのである。
もちろんマグロの意識ははかない夢を追うがごとく、ぼんやりとほぼ無意識にである。
しかし金額はきちんと安めに設定してあったようだ。
そこから最後まで入札に参加することは決してない。
せりは行わないのだ。
そして数日後メールが届く。
「あなたが落札しました」と。
嬉し悲しやとはこのことか。
まあ、距離は伸びることはマグロの夢でもある。
俺は夢を買ったんだな、と納得させるのである。

追伸:私は漫画というものをほとんど読んでこなかった。
ただ小学生のとき(滋賀県時代)、「サイクル野郎」という漫画に夢を感じたことを覚えている。
小学生二人が自転車で日本一周するはなしだった(そんなことが可能なのか?)。
ここから自転車に興味をもち、自分の新しい自転車にいろんなオプションをつけたりしていつのまにか自転車小僧になっていた。
先日ローヴァーがパンクして自転車店にいったが、当時は自分でなおしていた。
しかしである。
あるとき川沿いの道幅の狭い道路で大きなトラックとすれ違ったとき、私はところてんのごとく押し出された。
そして自転車もろとも7メートルくらいしたの川に落ちていった。
このとき最初の夢はゆるやかな川にさやさやと流されたのだ。