ハロウィンな人々

さとうまき

イラクのクルディスタンでは、10月になるとカボチャの収穫がはじまる。北部の山岳地帯に向かう街道のわきには、黄土色したカボチャが売られていて、とてもハロウィンぽいのだ。

ローリンは、シリア難民。白血病を数年前に患ったが、今では奇跡的に元気になっている。昨年は、イラクにいても、ろくな援助を受けられないから、ヨーロッパを目指して旅立つシリア難民が目立った。ローリンの親父は、60歳近く、顔はしわくちゃだが、やせていて、髪の毛を伸ばし、キース・リチャーズのような風格も漂わないわけではないが、抜けた歯を入れる金もない。

「ヨーロッパに行かないのですか?」と聞いたら、
「私はいかない。それよりカボチャだ。」
「え?」
「シリアのカボチャは白いんだ。イラクでは赤茶けたのしか売っていない。わしは、2年3カ月かけてシリアのカボチャをついに見つけたんだ。」
嬉しそうに、カボチャの種を見せてくれる。
「春になったらこれを畑に植える。秋に収穫するんだ。これでずーっとシリアのカボチャをイラクで食べられるんだ」

ローリンの親父の話には夢があった。
種を植えなければ実は実らない。
ローリンの母ちゃんは、カボチャを煮詰めたジャムを持ってきてくれた。黄金色に輝いている。

「カボチャで一儲けしましょう。日本では、ハロウィンが最近ブームになっているので、カボチャのスィーツを作れば大儲けできますよ」
私は、大儲けする話が好きだ。難民のおっさんが大儲けしている姿を想像するだけでも楽しい。

あれから一年経ちそろそろ収穫の時期だ。
「カボチャの収穫に連れていってください」
「まだ、小さいんだ」といってなかなか連れていってくれない。
勝手に収穫しないようにくぎを刺しておいて、僕も日本に帰らなくてはいけないからせかしてとうとう連れていってくれることになった。ローリンの親父が借りている畑は、3時間も離れていた。なんでも長男が住み込みで畑の見張りの仕事をしていることで、土地を貸してもらったらしい。

少し山に入ったところに農園はあった。ザクロがたわわに実をつけている。ローリンの親父はザクロをもぎとって、「くえ」と差し出す。摘み損ねた季節外れのスイカを地面からもぎとると、空手チョップで真二つに割り、「くえ」と差し出す。

しかし、肝心なカボチャは、あまりにも小さかった。しかも3つくらいしかなっていない。どうも、ここの土はカボチャには向いていないようだった。それで、僕たちは、街道で売っているイラクのカボチャを買って、ローリンの母ちゃんにカボチャのスィーツを作ってもらうように頼んだのだ。

数日後、キャンプに行くと母さんができたカボチャのスイーツをタッパに詰めてくれた。
「ごめんなさいね。シリアのカボチャがあったらよかったんだけど」
母ちゃんはでき具合に満足していないようで、何度もいいわけしていた。去年のに比べ、色もどす黒い。
「いやいいですよ、イラクの方がハロウィンぽいし」
ローリン一家のシリアのカボチャに対する思い入れは半端ではなかった。
「また、来年があるし」
といいながらも、いったい彼らはいつになったら故郷に帰れるんだろうか。