世界難民の日とワールドカップが重なる日

さとうまき

ワールドカップがはじまった。日本が予選リーグを通過してしまったもんだからTVや新聞は予想以上に大騒ぎになっている。

6月20日は国連総会で決議された「世界難民の日」。難民の保護や援助に対する世界的な関心を高めること、難民支援を行なう国連機関やNGOの活動や支援への理解を深めること、故郷を追われた難民の逆境に負けない強さや勇気、忍耐強さに対して敬意を表す日。

そんな日に、ワールドカップの試合があれば、難民のことなどに思いをはせる暇はない。そこで、ワールドカップ出場国の難民事情を調べて展示することにした。

僕が実際に難民キャンプで知り合った難民がたどり着いた国がW杯にでる。イングランド、デンマーク、スウェーデン、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、そして日本。そういった国が対戦するときはそれぞれの国の難民政策、そして実際の難民の事情などを思い浮かべながら試合を見る!これが、世界難民の日にW杯を見る正しいやり方だ。

たとえば、6月19日、日本VSコロンビア戦。
日本は、2017年の難民受け入れが19,623人の申請のうちたったの20人しか認定されていない。コロンビアの知り合いはいないが、調べれば世界で最も国内避難民が多い国。麻薬戦争で難民になった人もいる。しかし50年以上にもわたる内戦はサントス大統領の努力で終結したに近い。いろいろ調べて、コロンビア人が経営するバーで試合を見に行った。実際試合が始まると、難民のことなどすっかり忘れてしまう。コロンビア人がたくさんバーに集まってきて楽しかった。W杯だけあって白熱している。日本が勝ってしまい、TVや新聞は大騒ぎ。難民に関するニュースはかすんでしまう。

6月21日、デンマークとオーストラリア。
両国とも、知り合いの難民がいる。試合を見ているとイラクから同居している部下のアーデルから電話が入る。アーデルはヤズィディ教徒で、ISに襲撃されて逃げてきて、うちのイラクのアパートに居候している。
「フランス大使館から連絡が来て、移住してもいいっていうんだ。家族のビザも出してくれるんだ。どうしたらいい?」
と聞いてくる。こんなチャンスは二度とはない。もう会えないのは寂しいけど、
「君の将来を考えたらいくのがいいと思う」
「しかし、お兄ちゃんは嫌がっているんだ。そして、今まで君に雇ってもらって、仕事に生きがいもあるし。。。」ともじもじしている。
「寂しいけど、フランスに行った方が簡単に会える」
そうこうするうちに、フランスVSペルー戦が始まった。
「じゃあ、こうしよう。フランスが勝ったら君はフランスに行けばいい。負けたらいかない」
フランスガンバレ! ついに運命のゴールをフランスが決めた。
「世界難民の日のプレゼントだよ」
「よし、僕はフランスに行く!」

6月30日
イラクからシリア難民のリームが日本にやってきて支援を訴えている。講演会をやった。会場からの質問。
「難民という困難な状況でどうやって生活を楽しめるのですか」
「サッカーを見ています。日本が勝つことを応援しています。ただし私はロナウドが好きです」
ポルトガル戦でクリスチアーノ・ロナウドを見たら、シリア難民を思い出そう。