身代金を払うのは誰?

さとうまき

2018年も間もなく終わろうとしていて、30日にイラク、ヨルダンの出張から帰国した。年末、いろいろ反省すること。シリアの本を上梓するはずがなかなか筆が進まないので年末年始に一気に書き上げなければ。

シリアといえば、10月安田純平が無事に解放された。身代金は払われていない!と菅官房長官。しかし、新聞各紙が「シリア人権監視団」からの情報として3億円の身代金が払われたと書き立てた。僕は、某新聞社と連絡を取り続けていて、「それ、流すんですか? だって、シリア人権監視団の情報だけで裏が取れていないですよね? 身代金払ったて流すと、安田さんをバッシングしたい人に餌を与えることになる。」

シリア人権監視団をウィキペディアでググれば「この団体が信頼できない組織だということははっきりわかっているが、この世界は競争が激しいから、われわれはそれでも彼らの数字を流し続ける。」(AFP通信社)ていうのがすぐ出てくる。
「他の新聞でも流すみたいなんで、特落ちは避けたいみたい。私も流すのには反対しているのですがデスクが言うことを聞いてくれないんです」と記者。
「後で、絶対後悔しますよ!」と僕はしつこく説得したが、これが、ジャーナリズムだ。

シリアのことを書くとああだのこうだのしつこくディスるジャーナリストがいて、それを真に受ける人たちがリツィートしてくる。そもそも、今までシリアへの関心がほとんどなかったことを考えると、ほほえましいかもしれないけど。

僕は、残虐なアサド政権の擁護をしているらしい。アサド政権からお金をもらってプロパガンダをしている!と思っている人もいるらしいから驚きだ。

僕のスタンスは、あらゆる戦争犯罪は許されるものではないと思っている。犯した罪はきちんと償うべきである。バッシャール大統領を戦争犯罪として訴追するのならば反対しない。ぜひ、専門家の方は、やってもらいたい。 

僕の仕事は、小児がんの支援をすることだ。シリアの小児がんの病院は、アサド政権支配地域にしかないから、その病院を支援しようとすると、アサド政権のプロパガンダに利用されていると批判されるのだ。アスマ大統領夫人が内戦前から小児がん病院を支援してきたことは事実。だから「アサド大統領の病院を支援するのか!」と叱られるわけだ。

プロパガンダという意味では、先のシリア人権監視団といった反体制派の方が上手でスマートなのは間違いない。アサド大統領が失墜するまで支援をするなという人は、がんの子どもたちを全員シリア国内から連れ出して、ヨルダンや、イラク、レバノンでの治療費を全部払ってあげてほいしい。 

12月16日から3日間ヨルダンにいた。ここのシリア難民は、アサド政権には嫌な思いを受けている人ばかりといっても過言ではないだろう。いつも、車を運転してくれるイマッドさんもアメリカに移住してしまい、いとこのジョワードさんが車を出してくれたが、英語がほとんどできず、不愛想なおっさんだった。イマッドさんと、メッセンジャーで連絡を取ってくれるが、アメリカの時差が、昼夜がひっくり返っていて、なかなか時間が合わないから大変だった。手足を切断したシリア難民に何人か再会した。みんな大きくなっておっさんみたいになっている。それはそれでちょっとうれしかった。ヨルダンとシリアの国境が再開したので、シリアに戻る決心をした家族もいた。

シリアの内戦は終結に向かっており、国際社会はアサドが存続するかしないかにか変わらず、国交も回復しようとしている国が目立つ。国内の復興へと莫大な資金が流れるようで、難民たちは見捨てられつつある。

イマッドさんからは、マーゼン君(13歳)を助けてほしいというメッセージがはいる。再生不良性貧血で明日骨髄移植するので入院してるという。それがいつものキングフセインがんセンターでなく大学病院。建物はかなり老朽化している。国立病院なので、費用が安いのか、いろんな患者が訪れる。建物がぼろくても、日本だって大学病院はこんなもんだったような気がする。きっと先生は優秀なんだろう。

集中治療室にいると聞いていたが、普通の病室の前にいきなりパーティションが置いてあって間違えて人が入ってこないようになっているだけだ。正直この病院、大丈夫かなと思ってしまった。
骨髄移植はキングフセインがんセンターだと100,000JD(日本円で1600万円)ここだと60,000 JDそれでも日本円で970万円になる。
マーゼン君は、シリア内戦が始まってすぐのころにお父さんを心臓発作でなくしている。2013年に難民としてダラアからヨルダンに避難してきた。親戚たちに支えられているそうで、クェートにいるおじさんが20,000JD(320万円)を支払ってくれてとりあえず移植手術をすることが決まった。
どう考えても、残りの650万円を工面するのは並大抵ではない。治療半ばで掘り出されることはないのだろうか?看護師がいうのに、
「それは、ありません。治療は最後まで終わらせます。しかし、お金を払ってもらわないと、病院から出れません」
「身代金か?」つまりは人質のようなものだ。
何とかしてあげたいと思いながらも、さすがに、のこりの650万円をぼんと払える器量はない。別の予定もあったので話だけ聞いて去った。

翌日、いままで支援してきたシリア人が運営するNGOに3000ドルを支払うことになっていて、スタッフのムラッド君をカフェに呼び出して手渡した。ムラッド君は、シリア難民支援のプログラムが次々にカットされており、自分も首になりそうだと嘆いていた。通訳が必要だったので、「これから病院に来てほしい」といってマーゼン君の様子を見に行った。本当に骨髄移植は無事に終わったようだったが、どうも信じられない。「だって、骨髄移植したのに、隔離されてないし。」看護師が言うのに、「マーゼン君は、これから感染症など起こさないように観察します。明日からはこの病室は立ち入り禁止にして、お母さんも、おじさんも、そしてあんたもここに入れない」

マーゼン君はしばらく家族にも会えない。ドナーの弟のクサイ君から骨髄を採取するのにかかったのは1100ドル。このお金を払わない限り、クサイ君も病院から返してもらえないとのこと。
「まるで刑務所みたい」
とりあえず、1100ドルくらいならばとシリア難民支援の予算から、払ってあげた。クサイ君も無事に家に帰れるようだ。あとは、しばらく一人きりになるけどマーゼン君が無事にいてほしい。

横にいた、ムラッドが電話をしながら涙を流している。
「実は、会議に間に合わなくなって、僕は首になるかもしれないんだ」
という。あらあら。

僕は、とりあえず、マーゼン君も、ムラッド君もほっぱらかして日本に帰ってきたが、彼らが2019年を無事に迎えられるように祈っている。日本で最初のニュースが「ゴーン日産前会長の勾留延長決定 1月11日まで」というニュース。保釈金が10億をこえるといわれている。こんな金持ちこそ僕らに寄付してほしい。
ゴーンさん、この記事見たら
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ですよ!