くそにまみれた友情

さとうまき

今年一月からオープンした、JIM-NETの小児がん支援ハウス。日本政府が、少しお金を出してくれることになった。小児がんというと、受益者が少ないわりにお金がかかるので通常は支援対象にはならない。しかし、劣化ウラン弾だけではなく、戦争による環境破壊で多くの子どもたちががんにかかっている可能性は高いし、イラクはいまだに、治安が良くならず、石油の収益を医療に回すことすらうまくいっていない。

だからこそ、日本政府には、イラク戦争を支持した責任を果たしてほしい。苦しんでいるがんの子どもたちを見殺しにしてほしくないと思っていたからハウスを作ることは大きく一歩前進したと思う。

ハウスは、まず遠方からの意患者さんの家族の泊まる場所だ。病室は、がん病棟にもかかわらず3〜5人の相部屋になっている。お母さんたちが子どもに添い寝するから、お父さんは夜は外に出ていく。ホテルを借りるお金などないから、ロビーに寝たり、夏は病院の庭に寝ているのだ。

これを何とかしてあげたい。

しかし、警察が反対をしてきた。
「がん患者を泊めるのか? がんはうつる病気だろう。民家の中にそんな施設は作れない」
「いやいや、がんはうつる病気ではないし、患者は病院にいてとまるのはその家族です」
「家族というのは、アラブ人もいるのか? モスルから来た連中は、イスラム国と関係していたらどうするんだ」

結局警察は許可を出してくれず、家は事務所と患者家族らがリラックスできる場所として借りて、宿泊は近くのモーテル2部屋を年間契約で借りることにした。

イスラム国から解放されたモスルの人たちは、難民キャンプにはいかず、そのまま住み続けている人が多い。家は壊されていなくても病院が破壊されたり薬がなかったりで、クルド自治区にある病院に来なくてはいけない。しかし、イスラム国に関係しているかもしれないというので、検問でチェックされ、許可を得るのに時間がかかる。病院にたどり着いたらすでに夕方になっており、出直すと、又許可の取り直しでいつまでたっても診察してもらえないということにもなってしまうから、ホテルがあると非常にありがたい。彼らの多くは本当に貧しくお金もほとんど持っていないので、その辺で一夜を過ごすしかない。JIM-NETが借りたモーテルは、そんなんで、あっという間に利用者が増えた。役に立っているなと思うとうれしくなった。

日本に帰ったらしばらくして、担当の斉藤君からメールが来る。
「大変です。患者家族のホテルの使い方が悪く、ホテルのオーナーが苦情を言ってきました」
「え?」
「トイレの使い方が悪いそうです。あまりにも汚いから掃除できないといっています」
「ホテルで働いている掃除のおい兄さんはそのために給料もらっているんだから、それくらいやってもらわないと」

斉藤君がホテルのオーナーと交渉するも、トイレはくそだらけになっており、結局JIM-NETのスタッフ全員で掃除することになったという。
「うむ。ここは日本とは違い、トイレ掃除は身分の低い人がするものとなっている。スタッフに掃除させると彼らは、耐えられなくなってやめてしまうのではないか?」と心配になった。

しかし、わがスタッフたちは、クルド人、シリア難民、ヤジッド教徒らがおり、医者からドライバーまでみんなが力を合わせて、くその処理をしたという。

アラブ人のトイレは、日本式の金隠しをとったタイプと、洋式の座るタイプがある。どうも、モスルから来た人たちは西洋式のトイレを使ったことがなくどこにくそをしていいかもわからなかたらしい。

なんだか、彼らがくそまみれで仕事をしている姿を想像すると、ジーンと熱いものがこみ上げてきた。くそまみれの友情こそが、民族や宗派を超えて平和を作るのに違いない。イラクの平和はすぐそこに来ている。