バレンタインの翌日に

さとうまき

あれから、一年がたつ。
「局長! チョコの申し込みが、さっぱりです。」
え?
「チョコのパッケージのマスクが怖いとみんなが言っています」

去年のテーマは、がんで戦っている子どもたちへの応援メッセージそのものだった。売れるチョコレートを作るために、広告代理店に相談に行ったとしたらこんな風だろう。
「それ、直接的すぎます」
「そんなチョコは人にあげられない。つまり、ギフトにはふさわしくありません」
「だから、今年のチョコは、だれが見ても、きれいで、かわいくて、無難なものにしましょう」

不機嫌そうにコンサルの意見を聞いていた局長が口を開いた。
「がんの子どもたちは、髪の毛が抜けて、顔がパンパンに晴れて、鼻血が止まらない。だから、気味悪がられて、いじめられたり、うつる病気だと思われて避けられる。そんな子どもたちが差別されることなく、温かく迎えられる社会を作りたいんだ! イラクだけじゃない。日本だって、どこだって、がんと闘っている子どもたちがHAPPYになれる! そんな社会を作りたいんだ!」
「気持ちはわかりますけど、それじゃあ、お金が集まりませんよ。そんな夢物語を言ってたって駄目です。だって、子どものポップな絵がマスクしているだけで、怖いとか言っているわけですよね。皆が求めてるものは、快感です。お金で快感を買う。あなたが欲しいものは?」
「抗がん剤」
「お金が集まらないと薬は買えませんよ。」

そもそも、チョコ募金を始めたのは、イラク戦争が始まった2003年の暮れ。Baghdadのブンジローに新年の挨拶を送ったら「おめでとうという気分ではないのです。新年の挨拶は控えさせてください」と返事が返ってきた。
日本は、クリスマス、正月、そしてバレンタインデーとHappyだらけの日々が続く。Happyでいいじゃない。百貨店のチョコフェアにも出品出来て、恋人に気に入られるために買ったチョコにワサビが入っていて、涙が止まらない。
あんたが、流した涙は、死んでいったイラクの子どもたちのためさ! おめでとう! バレンタインデー! おめでとう! イラクの子どもたち!
「局長! しっかりしてください。今年のチョコは、花で決まりです。ワサビとか、からしはなしです」

僕は、日本を去り、戦場を歩く。
「あ! そこは、仕掛け爆弾があるかもしれないので気を付けて!」
「この下には、遺体が埋まっています。IS の戦闘員が殺されて、ゴミ捨て場に転がっていた。だれも埋めないから、仕方なく上から土をかけた」
横には迫撃砲の不発弾。ISに占拠されていたモスルの病院はアメリカ軍に空爆された。薬品倉庫は火がついて薬は焼けてしまった。靴の下で、薬瓶がぱりぱりと割れる。かつて、病院の庭には、バラが咲き誇っていたのに、春だというのに、足元には踏みつけられたタンポポの花。

早速、子どもたちが描いたタンポポの花をデザインする。
コンサルに見せると、
「すばらしい、無難です。」

「戦場のタンポポ、命の花。たとえ花は枯れても綿毛となり、遠くへ飛んでいける。というキャッチはどうですか?」
「あ、戦場はとりましょう。多くの人は、戦争とかそういうネガティブな言葉に抵抗を示します。」
僕の心の中の広告代理店の人とそんなやり取りをして出来上がったのが今年のチョコ。

2月15日は何の日?
バレンタインの翌日。
その日、君たちはHappy になれる。
その日のためのチョコレート。
そう。2月15日は、バレンタインの翌日。
My Funnyバレンタインの翌日
それは、世界小児がんの日。

JIM-NETでは、ギャラリー日比谷でさとうまきが2006年から手掛けたチョコ募金のデザインを一挙に展示します。
「戦場のたんぽぽ展」 2月8日―13日まで
https://www.jim-net.org/2019/01/07/4103/