決断の時

さとうまき

2月の半ば、新幹線で名古屋に向かう途中で読もうと、品川駅構内の本屋で手にしたのが、「決断のとき」(小泉純一郎 集英社)である。彼がどうして脱原発を訴えるようになったのか、そこが知りたくて買ったのだと思う。結局名古屋までつく前に爆睡してしまって、イラクに持っていって途中の飛行機で読んだ。

トモダチ作戦に参加した米兵が放射の被曝して、健康障害を訴えている。小泉元総理がアメリカまで被害者に会いに行き、話を聞いて涙する小泉氏。そして、基金を作った。なぜ、原発を推進していた首相が、総理をやめたら、脱原発になったのか

「推進論者・必要論者が言ったのは全部ウソだとわかったんです。原発の導入の経緯、実情、歴史、それを調べてみて、よくもこんなウソを信じていたと自分を恥じました。」
と記者会見で語る小泉氏。とても、立派じゃないか!

え? と気になるのがイラク戦争。3月20日で、15年が経った。開戦前に、ブッシュ大統領が、「独裁と圧政に苦しむイラクの人たちのために、アメリカと同盟国はイラクの人々に食糧と薬品と物資と自由をもたらそう。」といったが、サダム政権はあっという間に倒れたが、開戦理由だった大量破壊兵器は、見つからず、国際テロとの関係はなく、サダム政権崩壊後に反米テロリスト達がイラクに結集し、やがて、それは「イスラム国」と発展していった。

ブッシュ元大統領も、イギリスのブレア元首相も過ちを認めた。しかし、アメリカを強く支持した小泉氏は、
「アメリカがテロ掃討のためにイラク戦争に踏み切った。私は、日本の総理としていち早くそれを指示した。日米同盟があることから考えて、その判断は全く妥当だと思っています。(中略)フセイン大統領は、(国連で決議された)国際機関による査察を受け入れませんでした。イラクが査察を受け入れていれば、あのような戦争は起こりませんでした。」

いやいや、2002年の11月に、サダム・フセインは国連決議1414を受け入れ、査察が5年ぶりに再開された。当時、国連の査察団の団長をしていたハンス・ブリックスは、「02年から03年で700回、500か所を査察したが、大量破壊兵器は見つからなかった。それでも米英が、大量破壊兵器があるというので、場所を教えろという話になり、100か所を指定。30か所を調べたが、通常兵器や書類は出てきたが、大量破壊兵器は出てこず、そこで戦争が始まってしまった。」
アメリカがいう、ニィジェールからウランを輸入したという証拠書類もIAEAが、「それが捏造であることを見破るのに一日もかからなかった」と証言している。

なぜ、小泉氏は、イラクが査察を受け入れなかったと言い張るのか?
「後の民主党政権が外務省にイラク戦争の検証を指示したことがありました。私は、その調査に呼ばれたら、いつでもいく用意があった。疑問があるなら何でも答えようとした。だけど声がかかりませんでした」
え?
「今でも支持は正しかったと思っています」
えー?

昨年のモスルの解放作戦では、激しい空爆と銃撃戦で、4万人の一般市民が命を失ったといわれている。旧市街は、そっくりとがれきの山になってしまい、涙があふれるほどだ。ISは、いなくなったが、これが解放というのならあまりにもむごい。それでも20%は、旧市街のがれきに埋もれた家を掘り出し、住もうとしている。

小泉氏がこの地を訪れたら、「非難されるべきは、サダム・フセイン」だと言って涙を流すのだろうか?

もっとはやく、バグダッドや、ファルージャに小泉氏が訪れて、米軍に殺された子どもたちの遺体や、手足をもぎとられた子どもたちに会ったらどうだったのか。日米同盟をいうのなら、アメリカに行って、不覚にもイラクの子どもたちを殺してしまいPTSDに苦しむ米兵の話をきいたなら。。。それでも、全部サダムが悪いと言い切るのか?

情にもろい小泉氏だから原発と同じように「よくもこんなウソを信じていたと自分を恥じました。」ってなるはず。
え?

ということは、小泉氏は、いまだにウソを信じているのか?小泉は、日米同盟を重んじるが、アメリカの言いなりというわけでもないキャラとしてこの本では、描かれている。ならば、イラクが、1414を受け入れ、国連の査察がはじまっていたことを、小泉氏は、知らされていなかった?という可能性。
え?

そんなばかなことがあるのか?
いやいや、あそこまでかたくなに、サダムが、国連の安保理で決議された査察を受け入れなかったと言い切れるのか?
え?

民主党政権は、検証する際に、小泉氏をなぜ、呼ばなかったのか? 外務省の意向なのか? イラク戦争に反対していた民主党にしてみれば、本人が来る意向だったからまたとないチャンスだったのに。

ブッシュ大統領自ら「安保理の常任理事国のいくつかは、イラクの武装解除を強制するいかなる決議案にも拒否権を発動すると公式に表明してきた。国連安保理はその責務を果たしていない」言っており、有志連合で攻撃をする決断をしたのである。

しかし、日本の外務省が2003年に作ったパンフレットには、イラク攻撃そのものが安保理に合致したものだと断定している。日本だけ歴史が改ざんされているのだ。

もう、イラク戦争のことなど誰もが忘れかけている。しかし、自信を持って言える事実は、「イラクの人々に食糧や医薬品などの救援物資、そして自由をもたらす。」とブッシュ大統領がのべてから15年経ったいまだに、私たちは、薬を届け続けなければならないという事実がある。

(春休みの読書感想文に変えて)