十三夜メモ

璃葉

10月29日、20時過ぎぐらい。仕事を終えて帰路につく。
駅からしばらく歩いて、静かな住宅街を抜けて川にかかる橋を渡る途中、ようやく視野が広がるところがある。
そこで空を見上げるのはもはや習慣で、1、2等星が目立つ星座なんかを見つけては、ああもうそんな季節か、なんて考えたりする。

この日は星座が目立たない代わりに、月が明るく青白く光っていた。
あとすこしで満月というところか。すぐ傍に赤く輝いているのは火星だ。
薄雲がまばらに流れていて、その明るさは時折隠されて出てきて、を繰り返す。
秋も深まり風も冷たいけれど、透き通った夜気は妙に良い気分になるからやっぱり好きだ。
暗くて黒い緑が重なり合う夜。どうにもこの暗い緑がずいぶん長い間気になっている。

この日が十三夜なのだと知ったのは、自宅に着いてからだった。月の傍にいた惑星は火星で合っているよな・・・?と
友人が執筆している「月のこよみ」をめくっていたら気がついたのだ。
お供えも何もない。酒しかない。
ひとまず窓を開けてもう一度月と火星を眺めながら、黒糖焼酎をいただくことにした。