夕立ウイスキー

璃葉

飛行機の音かしらと頭の片隅で思っていたら、どうやら遠くの方で雷が鳴っているようだった。窓を開けるとその轟きはさらに鮮明に聞こえ、頭上にはもこもこした灰色の雲が流れてきていた。大量に干した洗濯物を急いで取り込む。

数分後、パタパタパタと大粒の雨が地面に当たる音が聞こえる。それと共に、ふしぎな匂いも外からふわりと入り込んでくる。土とアスファルト、草や樹木の匂いが混ざり、雨によって香り立つ。夕立————にわか雨の降り始めの匂いに反応する人はこの世界にどのぐらいいるだろう。私はとても好きだ。目に見えるのではないかと思うぐらいの匂いの粒子が部屋を通り抜けていく。

何だか突然、ウイスキーを飲みたくなってしまった。部屋の隅に置いてあるボトルに手を伸ばす。
先頃友人と飲んだ少し貴重なウイスキーは、塩味や甘味の奥にはちみつやベリー、土や草、はたまた硫黄のような味が重なる層のなかに隠れゆらめき、まるで自然そのものから絞り出したようなものだった。そのクセのある心地よさが、些かこの夕立の匂いと共通しているような気がしたのだ。
そのウイスキーとは違うけれど、日頃から大事に飲んでいるアイラ島のモルトウイスキーをグラスに注ぐ。夕方なので一杯だけ。冷えた水も一緒に。

雷が真上まで近づき、閃光が走り、破裂音が鳴り響く。雨はばしゃばしゃと滝のように降り、辺りは怪しく暗くなる。夜のような暗さではなく、雲の向こうにある夕焼けが透けて溶けたような、赤茶色の薄暗さだ。
風が舞い込み、紙の束が床に落ちる。
空気がうつろい、足の裏がしっとりと板間に張り付いた。汗ばむ肌をタオルで拭きながら、ウイスキーをちびちび飲む。小さな空間が雨とウイスキーの香りに侵食されていく。