ウシュクベーハーに沈む

璃葉

ウイスキーを味わう日々を送っている。
決してアルコール依存症ではない。とある場所を手伝うことになり、
ゆらゆらふらふら楽しんでいたものを、しっかりと学ばなければならなくなってしまったのだ。

ずいぶん前から思っていたことなのだが、きっと私は、酒の運に恵まれている。
なぜだかウイスキーのほかにも焼酎やワインに関連する仕事がきたりするし、
美味しいお酒をいただく機会が多い。
バッカスでも憑いてるのでは? と姉に言われたときは笑ってしまったが、
もしかしたらそのような気配があるかもしれないと、一瞬背後に意識が向く。
ついでに酒豪代表として、うちの父や祖母なんかも肩に乗っかってそうだ。
ともあれ、私が一番好きなお酒はウイスキーだ。
その日出会えたウイスキーの味を忘れないよう、最近はテイスティングノートをつけることにしている。

グラスに黄金色の液体を注ぐと、顔を近づけないうちから高貴な香りが漂ってくる。
香りを確かめ、一口含んで、じわりとひろがる味から食べ物や花や、情景を連想して、ノートに記していく。
洋梨やりんご、キャラメル、蜂蜜、ビターチョコレート、キャンディ。
花やナッツの香りだったり、バニラのような味が隠れていたり。
真っ暗な景色にぼんやり橙や黄金色がひろがっていく想像をする。
たまに緑や淡い水色も浮かんで、土のような香りもする。かたちがはっきりするものとしないものが現れては消えていく。
味や香りの輪郭を辿るのはたいへんに難しい。自分の感覚を信じられないこともあるし、
まだまだ経験の浅い私には、その複雑な香りをどう表現したらいいのか?となってしまう。
気の遠くなるほどの時間をかけて造られたウイスキーは、どれもこれも味の層が広いのだ。
樽や熟成年数、その他諸々によって驚くほど味が変わる。いやあ、なんて魅力的なのだろう。

何かに夢中になったり没頭することを沼にハマる、というらしい。
だとしたら、ウイスキーの世界はとんでもなく危険な底無し沼である。
もはや両手足ずぶずぶ浸かってしまっているから、私の場合は手遅れだろう。