144 希望の終電——土人のうたえる

藤井貞和

ふしぎな自由  力とことば  制度は火  燃え、
機動隊はきみを「土人」と言っちゃって  老者の「生」をぬり込む絵、
急ぐ流れる注ぐ  死の側溝に水の絶え絶え、
注ぐ意味  「ハート」はぼくら  自由な入り江。

跡は白波  申し込み用紙に  ものを洗う野の声に  二等車に、
捕虜の迷路に  映さない虐殺に  洩れるうぶごえに、
うた湧く胸に  藻の花に  捧げるぼくらの自由に、
それでも祈る  まだ性懲りもない友情に。

呼ぶ声がこごえに  しずかに  舗装する田に、
倒れるきみのひとばしらに  戦場のなわしろに  垂直に、
きみののこした陸稲が穂を垂らすこと  祈る。

無事で  生きて  兵舎にもどってと、
ぼくら  先生  国家の生殺与奪に負けないと、
平和と暴力  ことばの落下にそれでも祈る!

ものいみの国  ものを恋う心のさびし!
遭難のかなし!  埋めた吐息をなぜ発掘し!
だれかがきみを呼ぶ  泡のなかのあさまし!

ちがうな  ぼくらは平和産業  つまり産廃で  自殺ええ、
罪悪  きみの救いは「あら、えら、やっちゃええ、
どうしても、どうしても、助けねばならん、ええ」――

うたうらをやみのちまたに  投げあたえて、
たましいの踏切に希望の終電がさしかかって、
それでも  汚れた手のなかへ繭をにぎりしめて。

(「どこ摑んどるんじゃ、おんどれゃ、土人」と大阪から派遣された機動隊員が言ったそうです。土人の詩を書いてみました。自サ由ルへトのル道子さーん、終電です。)