146 黄鉄鉱――改稿

藤井貞和

紫式部さーん、
いくつになりましたか。
おれはあんたに仕える約束を、
ときにほったらかして、
ちがう哲学、
ちがう物語で、
すきまをかさねる毎日だ。
結果は、
見てのとおりさ。
黄鉄鉱という作品を書いたことがある。
紫式部さーん、
あんたはわたしをゆるす、
何を書いてもよい、
緑の石油は神々の排尿、
肥料の井戸に垂らす黄鉄鉱の粉末、
哲学は濡れる全身、
と書いても書いても、
おれはすべてをゆるされて、
立ち尽くすばかり。

(まったく反応をもらえない。でも、すこし炎を吹く肛門から磁鉄鉱までが転がり出てきた、なんて。内科にゆき、外科にもかよって、あんたの介護と、あんたからの介護とで、一〇〇〇年の歳げつがついに経ちました。かのじょはおれがなにを繰り返しても、なかばで忘れてきみの哲学に、物語に、と専心している。おいらは捨てられてつづく、誤解のままで、二〇一六年が暮れようとするみたい。)