154立詩(2)坑夫

藤井貞和

「東京へ帰りなよ」と、
漱石が言う、落石を避けながら。
「おれもそう思う」と、
鏡花の言い分は落花みたい。
「川はやばいて。 まもなく、
水が落ちてくる」と、
芥川も追いかけて言う。
徳山ダムに、
カミオカンデは作らせない。
星空が落ちてくると、
ほんとにやばいです。

(この地方の鉱山には五つの種類の金属が見出され、坑夫の肉体は地中深く妖怪になる。というのは、土と金属の気とによって身体が養われるからである。坑夫たちは生きているのでなければ、死んでいるのでもない。新たに坑夫が鉱山に入ってきたらば、この者たちは彼らをつかまえて逃がさない。しかし坑夫が、頭上に燈をともしているならば歓迎され、たばこを求められる。この贈り物で親しくなると、坑の外へ引き上げてくれるよう、妖怪たちに懇願されるが、坑夫はまず豊かな鉱脈を教えてもらう。それから自分たちは最初に外に出ると、妖怪どもを結わえてある縄を切ってやる。妖怪は上にまで達する。しかし、風にさらされて、衣服や肉体、骨は化して水になってしまう。その腐敗した気は生臭く、それを嗅いだ者は悪疫で死ぬ。坑夫が大勢であれば、妖怪を四角い土壁の中に閉じこめ、その上に燈を備えつける「台」をおく。このことで惨禍を避けることができる。風をうけると悪疫を吐きだす雲南のこの怪物は「乾麂〈かんき〉」〈乾いた鹿〉の名称でよばれる。――マルセル・グラネ『中国古代の舞踏と伝説』より。)