170 赤い土

藤井貞和

以前に、本部半島のユタ(巫女です。)に、私は疲労困憊のとき、
お会いしたことがあります。 「沖縄の土には、
二十万の亡くなった方の人骨が、どこを掘ってもはいっているのよ。」
彼女は何年もかけて、島内をめぐり祈りました。
そういうユタに聖地で何人にも私は出会いました。
歌集『沖縄』の新装版が出たと聞いて、「今度こそは」と手に入れました。
〈基地撤去は芋と裸足に戻ることと
演説せしアンガー弁務官よOKです〉(桃原邑子)
〈眼球に灸すゑ徴兵拒否をせし青年(ニーセー)の家に
石を投げける吾十二歳〉という一首もあります。
桃原さんは十二歳の夏(大正十二年)、自作歌を持って、
釋迢空(折口信夫)を訪ねたそうです。
いまに赤い土が火風(ヒーカジ)になることでしょう。
こんな歌もあります。 〈みるみるに飛行場を作り道を通じ
銃座をかまえるにわれら何を為さん〉
昭和二十年四月一日、上陸米軍のことを詠んだ一首とのことです。

(新装版が出たと、『笛』149号に書評が出ているのを見つけて、あわててアマゾンから購入しました。本部半島でお会いした巫女と、桃原さんとは、むろん関係ありませんが、どちらも歌人です。とうばるさんと呼ぶのでよいと思いますが、新装版にはMomohara Yukoとあります〈六花書林、二〇一八・一〉。OKです。)