184 碧玉 ——詩折(しをり)二題

藤井貞和

  亡いひとに

碧玉? とても悲しくて、
みどりの石? きっとそこいらで遊んでる、
古いことば、みんなでいくつも拾おう、
たいせつにする、ぼくは約束する

わたしも拾う、あなたが寝ているすきに、
数じゃない、きれいじゃない、
でも、きたないわけでもない、
たいせつなあなたのために、拾う

遊んでいる「みどり」さん、碧玉、
うみのおもての浮き輪も寂しい、
だからと言って、夕暮れだから、

暗くなるから、いちばん、
あなたが光るときだから、
どうか起きて、こちらを向いてすわって

  リベラリズム

清水昶さんが、鮎川さんについて、「 
  」と、言ったの迄(まで)は、
聞こえたよ、聞こえたさ、めちゃな、
酔い加減のあきら詞(ことば)よ、しりめつれつで、

十年にいちど、「十年に一回だけ、
鮎川さんはリベラリストで、」と、
言いかけて、北村さんも、中桐さんも、
リベラリストである、と言いかけて、

いったい明晰な「理性」とは、「実存」とは、
何だったのだろう、疑問詞をのこして、
めちゃな昶さんがゆく、聞いてる?

さいごの句は「遠雷の、轟く沖に、
貨物船」でしたよね、ゆくまぼろし、
友人を載せた軽い石もまぼろし

(軽い石、でも言葉遊びじゃないよな。言葉遊びはたいせつさ、軽い石。おまえは最低のところへ来る、堕ちる。軽みがほしいよな、おまえ。詩折を折る、やめてもいいんだぜ。心が折れる、芭蕉さんの棲む古池。違う、堕ちる石。帰れない、やめてもよいのに。遠雷でしたね、今夜の海上を光らせて。)