188 記号論

藤井貞和

がっこうのうしろはがけになっています。
わたくしたちはていこうできませんでした。
澄子がまっさきにがけから落ちていったのです。
よう子がそのあとを追うみたいにして、
ずるずる見えなくなりました。
ひろしは自分から落ちたみたいでした。
弓子とひろみとは手と手とを取りあって落ちました。
邦雄はそのばにたおれてうごきませんでした。
あとはだれが落ちたのかよくわからなくなりました。
けっきょく、全校で不明が33名、負傷83名、
逮捕者は42名でした。
お昼までに女生徒8名が釈放されました。
わたくしたちは未成年者ですから、
新聞ではみなAとかGとか、記号で呼ばれます。おわり
 
(思想の初版をひらくと、記号のおわり。きっとどこかで待っている、見者にはそれが見える。)