194 猫版、試し刷り

藤井貞和

1、猫さん、かわゆいね。〔にゃ〕
2、あれれ、「お世辞」かにゃ。
3、猫さん、あいらしいにぇ。
4、にゃにを望むかにゃ。
5、装幀された猫を、遠くへ投げよ。〔にゃ〕
6、至近への遠投は 猫の丸ごと。
7、受苦堂の散華の後ろ戸。
8、縁切り寺は 戦時の濡れ縁(にゅれえん)。
9、猫さんを階下に埋めた。
10、村は 白地。 沙が神やつ。 猫は 頸響く警笛ののち。
11、旧版に猫さん、降りてきた灰。
12、若い美しい光合成で。
13、天上のおかあさまがあなたを生みました。〔にゃに〕
14、生ける光の語り物。 猫さまは 日だまりで。
15、わたしゃ生ける墓場の竹の下降の猩々さん。
16、けわい坂でお漏らしする猫じゃにゃい。
17、あれれ、蛙の手ににゃる、よこぶえに化けにゃ。
18、あにゃたのために、にゃにも かも。
19、神やつの奏法で、琴板のぜんしんがふるえる。
20、生きて! ぜんしんをあげるから。
21、待って。 ゆかないで。 とまって、沙あらし。
22、にぇむりましょう、18日の妹に会う。
23、19日の姉に会う、こんちにゃわ!
24、おやしゅみ! せいしゅんの切り通し坂。
25、ころげ落ちよ。 またあぶな坂。
26、化粧して、にゃでおろす鬼の胸板。
27、かえでを散らす喉ぶえの琴。
28、おわるまいよ、天上の猫さん。

(十年後に向けて、試し刷り。)