201 焔喩

藤井貞和

わたくしは 「火焔瓶」という
焔をここに書きました

  ここ ここ

白いページにそれだけ書いてやめました
やめるのだな
わたくしは ひとつも完成することなく
こわしては 作り
作っては さらにこわす

わたくしは ふかみどりの焔のために
書きましたか

  書きました

売れましたか  見えない瓶が
ほんとうのことを言うと
行き暮れて
内ポケットにまだ投げられないままだし

にぎりしめる
その焔は
ほんとうのことを言うと
売れのこりです

空のどこかを飛びつづけて
あなたにとどかないふかみどりを
噴きあげていますよ

  ここ ここ

書くのは わたくし  ここに


(書かれるはずのことが終るとは。試掘の穴は埋没する。足場のない工事もまた終る。難解だな、通り越して字が水のように流れる。うつむくばかり。書くまえに消し、涸れるのを待つ。)