仙台ネイティブのつぶやき(51)宮城県美術館、その後

西大立目祥子

 宮城県美術館をめぐるあわただしいひと月が過ぎて、年が明けた。このひと月、美術館をめぐっては「寝耳に水」ということばが飛び交った。新聞の見出しに踊り、人に聞かされればじぶんも口にする。県が打ち出した、美術館を現在の場所から5キロほど東に新しい県民会館(音楽ホール)と集約移転するという方針は、この美術館に親しんできた人たちにとってはそれほど衝撃だったのだ。

 それは、2018年3月に宮城県が現地でリニュアルする基本構想を策定していたからなのだけれど、たぶんそれだけではない。この美術館が緑と川に囲まれたすばらしい立地にあり、その自然と一体となった建物は日本の建築界を牽引した前川國男の設計によるものであり、建物をめぐる庭のデザインも楽しさに満ちていて、コレクションもおもしろさがあり・・つまるところ訪れた人をとらえ魅了する何かがあるからだ。だから誰もが、えっまさか移転、いずれは壊される?とたじろいだに違いない。

 こういうとき表立って異を唱えないのが宮城人、仙台人で、仙台に歴史的建造物が少ないのは、これも要因の一つかもしれない。それがいやで、13年前、あるビルの保存活動を通して知り合った人たちと「まち遺産ネット仙台」という会をつくり、大切だと思う建物に危機が及んだときは行動をとってきた。
 今回もそう迷わずに、友人と会い、相談して行動することに決めた。なんというか、からだの反射みたいなものだ。こんなに誰もがいいと思うものを捨てようとするなんて、おかしい。そういう単純な反応、ですね。こういうとき素直にじぶんに従わないと、あとあと自分がおかしくなってしまうような気がするのだ、後悔とふがいなさとで。

 12月10日に、まち遺産ネット仙台から宮城県知事に現地保存を求める要望書を提出し、17日に宮城県議会に同樣の内容の陳情書を出した。両日とも、日本建築学会東北支部も意見書を出している。知事宛に提出したときは記者会見もしたので、テレビや新聞に取り上げられて、これはねらいどおり。議会に対して陳情するのは初めてで、どうなるか不安もなかったわけではないけれど、各会派をまわったり議長さんに手渡したり、すべてが小学生の社会科見学みたいで、行政と立法の仕事をあらため学ぶような新鮮さがあった。
 これまで、まち遺産ネットで3回保存活動をやって全部失敗している。そもそも対象物件の認知度が低く、だから迷いも多く、対応が遅く、なかなかうまくいかなかった。今回は、多くの人が実感としてその良さを知る公共の文化施設なのだ。迷いはないし、粘ってみたいと思っている。

 活動を始めたら、いっしょに動いてくれる若い人が出始めた。30代の人たちはすぐさまサイトを立ち上げ、工程表をつくり、ワークショップの記録を楽々とこなしていく。そして、要望書を出すのに賛同者を探して知人友人をたよりに声をかけると、力を貸してくださる方々とつながり、全国の同じような活動をする人たちがまるで旗を掲げているように見えてきた。その中には宮城県美術館の建設中に前川國男設計事務所所員で、その右腕として仕事をされた方もいて、遠くから発してくださる建物への思いは、そのまま私たちの活動の推進力になっていく。市民が起こすムーブメントが、人と人のつながりの中で実現されていくのを目の当たりにする思いだ。

 一方で、今回の宮城県の動きは知れば知るほど、疑問がわいてくる。数年かけて議論を重ね、現地でのリニュアル案を策定したのは教育委員会生涯学習課なのに、今回の方針を出したのは、知事部局の震災復興政策課。事務局案について「県有施設再編等の在り方検討懇話会」の6名の構成員が検討するだけだ。その名のとおり、老朽化した県の施設をどうたたむかを検討するのが目的だから、そこには美術家も建築家もいない。県の財産にかかわることだからなのか、議事録も公開されない。文化的側面からの評価は何もないままに、これだけ大きな決定がなされようとしている。

 これは国の方針であるらしい。人口減少の時代に入ったことを踏まえ、国はお荷物になりつつある老朽化した建物をたたむ方針を打ち出した。集約化すれば、国から借金して新たな建設ができ、いずれ借金の何割かは交付金となり、県の懐はそう痛まずにすむというわけだ。同じことが、東京都の葛西臨海水族園でも起きていると聞いている。
 でも、なぜこんなに宮城県は急ぐのか。移転集約を中間案にして、県は12月末にパブリックコメントの募集を開始した。1月末に締め切り、2月初旬の懇話会で了承されれば、この美術館の移転は決まってしまう。人口減少の時代だかこそ、何を残すのかをしっかりと議論し長く大切に使う方向性が大切であるのは、もう誰もが考えていることなのに。

 というわけで、私たちの活動は1月がカギだ。幸い、地元紙の河北新報が、この移転集約案に疑問を投げかけ連日のように報道してくれているのが追い風になってきた。
12月末にはHPに「考えよう、宮城県美術館のコト」という特集ページを開いている。
https://www.kahoku.co.jp/museum/

 私たちも「アリスの庭クラブ」というサイトを立ち上げた。宮城県美術館には誰もが好きになる「アリスの庭」という彫刻が点在する庭があって、その名にあやかったもの。ぜひご覧ください。
https://alicenoniwaclub.wixsite.com/website

1月5日に、ネットでの署名を開始しました。
ご賛同と拡散をお願いします。
前川國男が設計した宮城県美術館。 県民が愛する美術館の現地存続を求めます。