仙台ネイティブのつぶやき(13)市で会いましょう

西大立目祥子

毎月2つの市を主催している。
仙台市若林区の陸奥国分寺薬師堂境内で開催する「お薬師さんの手づくり市」(毎月8日)と、同じ区内の寺町にある新寺小路緑道と隣接する公園で開く「新寺こみち市」(毎月28日)だ。

なぜ開くことになったのか、細かい経緯はいずれ書くことにして、今回は市が人と人が出会う場になっていることについて、ふれたい。

開催はそれぞれ1年に12回。冬も休まない。前者の出店者は約150で、後者は約60。朝早くから、仙台市内を中心に、周辺市町村や県外からも、手づくりの食品や雑貨を車にいっぱい詰め込んだ人たちが会場につぎつぎと到着して荷物を下ろす。いまの季節は気持ちがいい。桜が終わって、樹々がいっせいに小さな黄緑色の葉を広げ始める下で、テントを張りテーブルを出し商品を並べる。私も朝7時ごろから後片付けの終わる5時ごろまで会場にいて、来場者や出店者に応対する。にぎわいのピークは午前11時ごろ。いつも静かな境内や寺町にびっくりするほどの人が集まってくる。8年目に入った「お薬師さんの手づくり市」は、土日に重なると5千人くらいが訪れるようになった。

私の友人や知人もやってくる。
毎月欠かさずきてくれるYさんはすらりとした長身の70代の男性で、「お薬師さんの手づくり市」は皆勤賞だ。「やあ、今日も人出がすごいね」とあらわれ、何を買ったかを教えてくれ、そして必ずほめてくださる。ここまでよく頑張ってきたとか、雨の日は雨の日で風情があっていいとかという具合に。だから、晴れない気分の日はきてくれないかなあと心待ちにする。

Hさんも愛犬のパピヨンを連れ欠かさずやってきて、椅子と紙コップのコーヒーをすすめると腰掛けて30分ぐらいおしゃべりをしていく。学童保育の活動をしてきた方で、長年の活動で培われたのだろう、話していてもいつも子どもへの目配りがある。小さな子が犬に近づいてくるとさわらせてあげるし、男の子が地べたでお弁当を食べ始めると、「ボク、ほらこの椅子に座りなよ」と近くの椅子をすすめる。そういう配慮に、教えられることもしばしばだ。

Oさんは、歴史的建造物の保存活動をしてきた仲間で、料理がお得意。一昨日の大雨の「新寺こみち市」にも、手づくりのお弁当をもってきてくれた。テントの下でお弁当を広げ、あれこれおしゃべりしながらいっしょに食べる。「私、先月ドイツに行ってきたのよ」と意気揚々と話すときもあれば、「この2週間すごく落ち込んでたの…」と陰った表情のときもある。本音が出てくるからこちらも本音になって、世の中のひとつひとつの動きについて意見を確かめあうようなおしゃべりなる。

85歳の叔母も昨年秋から「新寺こみち市」に欠かさず出かけてくるようになった。一度きて楽しさを実感したらしい。杖をつきながら店をめぐり、店の人とおしゃべりして買物を楽しみ、事務局のテントに戻ってきて「今日の発見は、向こうに出てた麻のバッグづくりの人。あれ、すごいんじゃない?」と報告していく。ひとしきりしゃべると、「もう私に気を使わないでね、ちょっとそのへんスケッチして帰るから」とスケッチブックを取り出し、姿を消す。ときには、市を友だちとの待ち合わせ場所に使ったりしているようだ。

「元気だった?」と友だちが姿をみせ、里帰りの幼ななじみと久しぶりに再会することもある。買物にきた知人が「お昼に食べて」とパンを差し入れしてくれたり、取材をとおして知り合った人が「きてみましたよ、すごい人だね」と声をかけていくこともある。

それぞれが私と話をしていくだけではない。たまたまテントで行きあった人同士が並んで座り話すこともある。何回か市で見かけた顔見知り同士の会話。でもそれは、あたりさわりのないお天気の話に終わるというわけでもない。煮豆のだしについて。近頃閉店した店について。地下鉄東西線開業後、不便になった仙台市バスのダイヤについて。アベノミクスで切り捨てられる低所得者層について。都市緑化のゆくえについて。喧々諤々ではけれど、やりとりの中で、こんなふうに考えてるのは自分だけじゃないんだ、と感じとれるのは大きい。連帯とまではいかなくても孤立はしていないこと、ゆるやかなつながりの中にいる自分を確かめることができるからだ。

きてくれる人たちは私と格別に親しい友人というわけでもない。Hさんのように市で話すうち打ち解けた人もいる。でも、月に一度必ず会うという意味は大きい。あらわれないと、どうなさったのだろうとちょっと心配になる。あいさつをかわすくらいの顔見知りが、ひとりひとりにとって案外と大きな存在であることは、東日本大震災のときに教えられた。三陸沿岸から出店していた人たちのことを、お客さんや出店の人たちが本当に心配していたから。「あの人は無事だったの?」「いつ出てこれるの?」そんな質問を何度もされた。そして2年後、困難を乗り越えて再出店を果たした人を、みんなが大歓迎していた。

まちづくりで都市のコミュニティ再生がいわれるようになって久しいけれど、私はこうしたゆるやかな関係が糸口になるかもしれないと考えるようになった。友人手前の顔見知りを増やすこと、顔見知りが定期的に顔を合わせる場をつくること。そこから地域に根ざしつつ地域をこえたコミュニティが生まれるかもしれない。いま、熊本もまた大地震に見舞われているけれど、ある日突然の災害によって避難所に駆け込んだとき、私たちは自分でも意識しないままに、まず体育館の中の人々に目をこらし、顔見知りを探すのではないのだろうか。

だから、このごろは知り合いになった人をまずは市にお誘いすることにしている。市にきてみない?つぎは5月8日の「お薬師さんの手づくり市」ですよ。