高い山は下界とは違うという話

大野晋

夏の高山のお花畑は、花が咲きそろいまるで天国の様相を呈しています。
気温も、下界に比べるとすごしやすい温度で、私なども避暑を求めて高山に登ったものです。

人間、本当に似たような環境を見ると、するっと違いを忘れてしまいがちになります。
天国のような、などというと実際に天国のように思いますが、実は高山は過酷な地獄のような環境だったりするわけです。お花畑がなぜお花畑としてそこにあるかというと、寒さが厳しかったり、湿度が足りなかったり、風が強かったりして高い木が育たない厳しい条件のためであったりするためなのです。であれば、天国のように見えはしても、実は地獄のような世界が待っていると言えるのかもしれません。

しかも、こういった厳しい気候条件の場所には春も秋もありません。あるのは、厳しい冬と楽園の夏だけです。
下界は春だといっても天上界はまだ冬ですし、下界は秋だと思っても実は天上界はいきなり地獄の冬に変化することがあります。

この厳しさを理解していないと、いきなりの冬山への変化に遭難事故が起きたりするのです。
この秋も厳しい秋でした。いきなりの冬山に多くの遭難のニュースを聞くにつけ、高い山を下界と同じ気持ちで見ることの怖さを感じました。

違うからこそ、あの美しさがあるのだと理解してほしいと思った10月連休でした。