オトメンと指を差されて (43)

大久保ゆう

水牛をお読みのみなさま、あけましておめでとうございます。時の流れは速いもので今回で4度目の新年のご挨拶となります。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

年初と言えば、やはり一年の計を考え決めるということになるのですが、わたくしは割合しっかりなにがしかを設定してちゃんとこなしたり年末に振り返ったりする類の人間でございまして。昨年については、まあまずまず及第点といったところでしょうか。今年もまた年始の何日かを費やして思案するわけですけれども。

それはそれとして、うっすらとしたわたくしの記憶を辿っていくに、この癖はどうやら幼少の頃よりあったようでして。わたくしはちいさな商店街に生まれ、小さい頃は近所にあった専門店の寄り集まったごくごく小規模の複合施設と同年に生まれたことから、なぜかそこのマスコット扱いにされたらしいのですが、その施設(現在はすでに閉鎖)にあった駄菓子屋風のお店でお年玉を握りしめながら、ある年始にこう決めたのです。

「今年は……しゃべらないでおこう。」

現在のわたくしからすれば、つっこみどころが多すぎて何からどう言えばいいのかわからなくなるのですが、つまるところ、幼少のわたくしは年単位でキャラといいますかペルソナといいますか、外界への態度をころころ変えていたようなのです。正直、外から見てもあんまり変化はなかったのかもしれませんが、ある年には朗らか(?)によくしゃべり、ある年には寡黙になったりする、そういうことを自分に課していた、と。昔から演劇的性格だった、といえばそうなのかもしれませんが、とにかく変わった子であったことは間違いないでしょう。

ただ、わたくしにとっては「思ったことを口に出さない」ということは、今でも重要なことであるわけで、そのときの判断にも何かしらの理由があるのではないか、とも思えます。というのも、それは別に心のなかが腹黒いとか悪口を考えているとかいうことではなく(そういうことには興味がございません)、その、何度かこの連載でも触れておりますが、わたくし、基本的にはいつもぼーっとくだらない想像をしておるのです。だいたいが妙な言葉遊びや、ものすごいどうでもいい〈仮定:もし××が○○だったら……〉、あるいは勘違いや思い違い聞き違い、そういうことが常に頭のなかでぐるぐるしておりまして、うっかり口に出そうものなら、なんというか天然扱いされますので。黙っていれば、笑顔の人、静かな人、あるいはさわやかな人、といった感じで見てもらえるので、処世術としてある程度の調節を。(とはいえ、人前に引きずり出されたり、受け止めてくれる相手がいるとわかっているときは、かつて中学で生徒会長をしたときやこの連載におけるごとく、テキトーに外へ出すのですが。)

しかし具体的に言わないとわからないと思うので、極端なたとえばを出しますと、

Aさん「そういえば、冷蔵庫にキリンが入ってるんだけどさ……」
私(えっ? 冷蔵庫にキリン? えっえっ? それって無理なんじゃ……てゆうか首はどうやってしまってある……)
Aさん「(しゃべり続けている)」
私(というか、もしかして……キリンさんの……お肉? お肉があるの? どういうこと? これから食べるのかな? うええ? これちゃんと聞いた方がいいのかな……)
Aさん「あんまりうちお酒飲まんから、1缶でも開けてってくれると助かるんやけど」
私(……あっ。ビールのことか。よかった、しゃべらんで、聞かんで……あ、でも動物のキリンが冷蔵庫に入ってるのも何か面白そうだな……手乗りキリンとかいるとかわいいし、ぬいぐるみ……そうだ消臭剤を兼ねたキリンのぬいぐるみとかあったらいいな……別に缶ビールを模した消臭剤でもいいけど……)

または

Bさん「こないだインドゾウを買ったんだけどね、いやあこれが大変でさ……」
私(うええ? インドゾウ? 買ったの? えっ、それって飼ってるってこと? 家で? そんなのできるの?)
Bさん「(しゃべり続けている)」
私(いやでも屋上で飼えるっていうし、どこに囲うにしろ彼ならやりかねないところもあるし、もしかしたら新しい治療法でゾウセラピーみたいなものがあるのかもしれないし、えーとえーと)
Bさん「でも地震も怖いし、患者のためにもちゃんと付けて、大きさによってすぐ電源とかが……」
私(……はっ、これはもしかして震度計のことか。あー、びっくりした……それにしてもゾウセラピーって確かにありそうだな、これってたとえば……イルカセラピーみたいな感じで、背中に乗ったりとか鼻に巻かれて持ち上げられたりとか……でもああいうセラピーって動物への負担が大きいっていうから……やっぱぬいぐるみか、そうかぬいg)

というようなことがあったりするため(さすがに実際キリンやゾウでは勘違いしませんがだいたいこんなニュアンスの間違いをするので)、思ったことをすぐしゃべらんようにしておるのですよ!

何の話でしたっけ。そうそう、年始の抱負ですね。こういうことは、はっきりさせたり口に出すことによって自分を追い込むような側面がありますよね。言霊とでも申しましょうか。であるからしまして、ある種の人(わたくし含む)には、抱負なり一年の計なりを言わせて聞き取る、ということもきっと大事になってくるのでしょう。わたくしのしゃべることは、他人にとって重要だろうが面白かろうがそうでなかろうが、おおかた当人にとってはどうでもいい妄想なのですけれども、ちゃんと言質を取っておだてたりあおったりすると、急に現実味を帯びてしまって、そこそこ真面目に取り組むので、誰かに何かをさせたいみなさまにおかれましては、年始早々ついでに色んな方から言質を取るのがよかろうかと存じます。

ちなみに今年の年初につきましては、わたくしの言質をお取りにお越しになる場合、わたくしもそれ相応の対策や防御や反撃を致しますので、この年始攻防戦をともにお付き合いいただけると幸いです。