引きこもりを強制される日々

高橋悠治

コロナウィルスのグローバル化とともに 権力をもつ政治家のウソや情報隠蔽 ウィルス検査のサボタージュ 行政末端のごうまんな態度が目立ってくる ジャーナリストで映像作家の アンドレ・ヴルチェックが 飛行機を乗り継ぎながら 香港からバンコク ソウル アムステルダム パラマリボ(スリナム) ベレン(ブラジル)を経由して8日間かけてチリのサンチャゴに着くまでの記録を読み その後でスロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクの『コロナウィルスはキル・ビル風の資本主義攻撃でコミュニズムの再発明につながるかもしれない』を読む タランティーノの映画『キル・ビル2』に出てくる必殺技 五点掌爆心拳は 指先で相手の体の5つのツボに当てると 相手は5歩歩いて心臓破裂で死ぬという武術の手だが 民族国家を超えて 世界の連帯と協力にもとづく もう一つの社会が生まれる兆しはまだ見えない 

それどころか 都市閉鎖から国境閉鎖 選挙の延期と権力支配の拡大と延長 アメリカのイランに対する経済制裁の強化と 中国・キューバ・ロシアのイタリーに向けた医療支援の妨害 とりあえずの医薬品となるマラリア治療薬やインターフェロンの無視と使用禁止 というニュースさえ 日本のメディアでは報道されない 御用メディアと 最近では御用学者の声しか聞こえない 冷戦が終わって30年だが じっさいは世界は二つに割れていた 片側にアメリカと EU イスラエル 日本とサウジアラビアがあり 中国とイラン ロシアは反対側にある 経済の崩壊は見えてきたようだ 今の政治体制を支えている経済が崩壊すれば 政治がそれを救うのは 自分の髪を引っぱり上げて溺れまいとするのにも似ている 

13世紀のペストはヨーロッパ中世を終わらせた 1980年代からの格差社会はどうなるだろう 『デカメロン』や『方丈記』のように ひきこもって物語しながら いったい何年待つのだろうか 場のないところで音楽を続けるのはもっとむつかしいかもしれない