製本かい摘みましては(124)

四釜裕子

絶滅危惧種の剝製は劣化を避けるためになるべく人目にさらさない、そこに木彫の出番があると、ラジオで聞いた。バードカービング作家の話だった。コレクターがついた美術品も人の目から遠ざけられる。写真家ロバート・フランクは米国の美術館に収蔵された自分の写真が、劣化を防ぐために展示される機会が減り、莫大な費用を要するために国外貸し出しがまままならいことに呆れていた。若い世代の目に触れる機会を作りたいとドイツの出版社シュタイデルと企画した展示が世界を巡回している。11月、東京藝大美術館陳列館に「Robert Frank : Books and Films 1947-2016 in Tokyo Robert Frank & Steidl」をみた。

フランクのいらだちにゲルハルト・シュタイデルが思いついたのは高性能のインクジェットプリンタを使うこと。用紙は新聞用紙。これを丸めて筒に入れて各地の会場に送り、ピンや糊でじかに貼り、無料で開放し、展示が終わったらすべてを廃棄する、という方法だ。用紙については南ドイツ新聞社が、広告などのために要望される少し高くて質のいい紙の余剰を提供してくれることになったという。原案を聞いてフランク(チラシにはわざわざ ” カナダのマブーの小さな家に住む ” とある)はこう言った。「安くて、素早くて、汚い。そうこなくっちゃ!」

実際の展示は汚いことはまったくない。二人の間で交わされた本づくりのためのアイディアを記した手紙や細かい指示書、サンプル本もケースに展示されており、それらの完成版である「写真集」はどれも手にとって見ることができた。カタログはこれまた再生新聞用紙に、南ドイツ新聞のフォーマットどおりのデザインで作られ500円だったが、早々に売り切れていた。入り口すぐのところにカタログを含めた既刊の写真集が天井からワイヤーで吊るされていて、もちろんこれもすべて見ることができる。厚いハードカバーのものは背が4、5センチも破れていて、こればかりはちょっと痛かった。作品のため、著者のため、読者のために着せられたこの ” 重さ ” はけっきょく誰が自分の重さとするのだろう。

2007年、ロバート・フランクが初版から50年記念の『The Americans』最終版を作ろうとシュタイデル社を訪ねたときに、「俺は単純な人間なので、簡単な本を作りたい」と言ったそうだ。シュタイデル版はきわめてシンプルなものとなった。二人で多くの本を作る中、シュタイデルはフランクに写真を物理的なものとして尊重しすぎてはいけないと戒められ、何万ドルもする写真と今朝の新聞に載っている写真の価値を分つものとは何か、とも言われたそうだ。2016年11月30日の朝刊には、朴槿恵さんや「女性のみなさん、がまんするなんて、もったいない。」と添えたアーモンドチョコレートの写真があった。