CD『 めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽』MM-4010
解説
めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽
17世紀の舞曲からヘンリー・パーセル(1659-1695)の『ハープシコードあるいはスピネットのためのレッスン選集 』(1696)から3楽章の組曲7番 (Z668)とルイ・クープラン(1626?-1661)の2曲 シャコンヌはリフレインのあいだに3つのエピソードをもち パヴァンヌは嬰ヘ短調という当時はめずらしい調性で書かれている
高橋悠治『散らし書き』は古今和歌集を散らし書きにした平安時代の「寸松庵色紙」の三枚による 続け書き(連綿)をことばの切れ目とはちがう分けたり改行している 墨の濃く太い線は長い音 細い線は早い音の動きでなぞる 曲線は音程の揺れ 音の始まりは 前の響きを拾い 終わりは音程を外す その線を両手のちがう音域に移し それにあしらいまつわる別な線 最後の部分には雄鹿の求愛の声の採譜を添える ルイ・クープランの頃の「崩したスタイル」で単音を際立たせる
ジョン・ケージの『四季』(1947)はマース・カニングハムのダンスとイサム・ノグチの美術のための音楽 インドの季節観では 冬は静止 春は創造 夏は維持 秋は破壊の四つのエネルギーを指す それぞれに前奏曲が付き 最後はふたたび冬にもどる この時期のケージは 全体と部分が同じ割合の列になる「リズム構造」の時間枠のなかに和音やフレーズの「まとまり」を配置する方法を使っていた
20世紀前半の作曲家が子どもの音楽を書くとき 限られた素材を使った短い曲は いままでとはちがう作曲法を試す場でもある
作曲年代順に まずバルトーク・ベーラ(1881-1945)は 採集した民俗音楽の単純なメロディーに意外な和音をつけ ピアノを打楽器的奏法を試している タイトルは10曲だが じっさいは序として加えた『献呈』で11曲になる
サティ(1866-1925)は1913年に 5本の指の範囲で子どもが弾ける曲を書こうとしていた 『コ・クオが子どもの頃(母のしつけ)』はその最初の試みで 公開されず 1999年に作曲スケッチブックのなかから発見 出版された 短い3つの曲に物語がついている
(1) ココアに指を入れないで
すこしさめるまで待ちなさい。
あら!舌をやけどした?
ちがうよ、ママ。スプーンを飲み込んじゃった。
(2) 耳元でにうるさくしないで
(マーチのように)
いやな子ね。
足を踏まないで。
ほんとにがまんできないわ。
(3)腕で頭を抱えないて
お行儀よくしていれば、陸軍元帥になれるよ。
大砲で頭が吹っ飛ぶかもしれない。
でも男の子には名誉なことよ。
木の頭をした傷痍軍人になれるかも。
ブゾーニ(1866-1925)の6曲あるソナティナの第3番は「アメリカの少女のために」と副題があり 前奏曲・小フーガ・行進曲・間奏・ポロネーズの5つの部分は同じ主題を変形する 古典のスタイルが抽象化され異化されている
ストラヴィンスキー(1882-1971)は「8つのたいへんやさしいメロディー」だが 右手5本指のドレミファソが 左手の外れた音とぶつかってアイロニックに響く
ヴェーベルンの『子どもの曲」は12音技法を最初に使った曲 1965に発見された
高橋悠治