ジット・プミサク
詩・スラチャイ・ジャンティマトン
曲・カラワン
彼は死んだ、森のはずれで 貧困と苦しみの地を
その血で赤く染めて
最期(おわり)の日彼は 山を降りる
大鷲の影の下を
銃口は彼を 囲み餌食にする
なんたる幸運 四階級昇進、千の星
星は落ちて 彼の生涯の幕はとじる
予期しなかった最期(おわり)
幾百万の貧民に 数十人の富める者
この現実に恥じて
彼は闘う人となる 貧しき人びとの味方として
ペンをとり書き著わす
身は牢獄に繋がれても 心は自由
不正と闘うために生まれてきた
けれど残忍な権力は 行手にたちはだかる
斃れていったのはいくたりか
二五〇八年 暗雲は空にたちこめる
大鷲の威光をおびて
家を捨て都市(まち)を後にし 森に身を投じ
死を賭した生活を選ぶ
五〇九年五月 日の光も色あせた
彼は牛車の轍のそばに横たわる
この遺骸(なきがら) この人が ジット・プミサクなのか
森と人里のはざまで息絶えていた
彼は死んだ、森のはずれで イサーンの地を赤く染めて
いつまでもいつまでも赤く染めて
彼は人知れず死んだ がその名は今にとどろく
人びとはその名をたずね すべてを知ろうとする
その人の名はジット・プミサク 思想家にして著述家
人びとの行手を照らす灯火(あかり)
タムブン=この摩訶不思議なる「利己的」行為
君よ、ちょっと立ち止まって考えてみてくれたまえ
功徳を積む(タムブンする)とはいったい何をすることなのか、と
愚か者のわたしはいつも決まってこうたずねる
「鶏を絞めて寺院に献上することさ」
えっ本当かい……君! わたしはやおら不可解な気持になる
律法は殺生をかたく禁じているのに
肥えた鶏を絞め殺す……ああ、なんたること!
盛沢山な品々を僧に献上する奴らは
御利益(ごりやく)をあてにして奉げるにすぎない
次の世での幸せと繁栄のため
商人が利を商うように徳を商う
真(まこと)の功徳(タムブン)とは
大小にかかわらず、人類兄弟に対する善行
助け合い、励まし合い、手をさしのべ合うこと
人びとを呪いの軛から解き放つこと
眼のとびでるほどの高利むさぼり、金(かね)、財布からあふれさせ
寝そべって腹たたきながら金利を夢見
朝(あした)に托鉢僧に食物奉げ夕(ゆうべ)に経をあげる
これが功徳を積む(タムブンする)ということか……徳(ブン)が聞いてあきれる!
貯水池を掘り橋を築こう
道路をつくり、教育を普及させよう
すべての民衆がそれを享受できるように
これこそ読経にまさる功徳(タムブン)
堂々たる仏塔や仏像の建立
もう聞きあきた、その価値云々
どこを歩いても寺に出くわす
僧侶にとっても不足はあるまい
来たれ、来たりて大いなる善行(タムブン)をなそう
民衆の生活の向上を助けよう
幾百万もの人びとがいまもなお辛酸を舐めている
これこそ寺院建立よりはるかに重要な任務
誰もが幸福な生活を享受できた時
心はひらかれて
すすんで寺院を建てるだろう
至浄の地と呼ばれるにふさわしく
これがわたしのささやかな問いかけ
いたるところで人びとは真(まこと)の善行(ブン)を待っている
「己のための」功徳(タムブン)……なんたる奇異
タムブンをする方々ちょっと考えてみてほしい
クワンナラー
一九五七年『ニティサート』
この手で築く地上の楽園(サワン)
「ああ、なんと馬鹿げた話でございましょう
あなた様の言われることは笑止千万
来世を望むだなどと、来世なぞどこにございましょう
ありもしない絵空事の天国(サワン)など」とわたしは申したてる
その男は怒って大声でどなる、「何だと
あるに決まっているぞ! くそ、このおせっかいな小僧め」
わたしは恐ろしさに即座に後ずさりする
「お赦しください、お赦しください(わたしは申しひらきする)
手前は愚か者でございまして目もよくございませんから
天国(サワン)と申しましても、その姿形が見えません
そこでおたずねしたまでで、あなた様をからかったわけではございません」
「ほお、そうか」(やれやれ助かった)
その男はまだ怒気をふくんだ目でわたしを睨みすえ
「ふん、この馬鹿野郎、教えてやるからありがたく拝聴しろ
天国(サワン)というところはだな、このうえもなく美しいところだ
天国というところはだな、苦しみのない
至福の国さ」 わたしはわざとたずねる「本当ですか?
神々は汚職などしないのですか?」
「何を、この糞ったれめ! 汚職だと、蹴飛ばしてくれるわ」
わたしはさっと身をかわし、「はっ、まったく住心地のよさそうなところでございますね
妖怪の国よりはよほど開けているようですし、搾取なんかもなさそうですし?」
「絶対だ!」と奴は言い張る、「まったくいいところだよ」
その男は天国(サワン)について奇妙奇天烈な話をはじめ、支離滅裂になるまでまくしたてる
一糸まとわぬ天女たちの豊満な乳房の話とか……
奴が黙るとわたしがつづく(交互に!)
天国(サワン)があるとすればひどいところに決まっている
胸もあらわな女たちなど見ちゃおれない
腐敗堕落しきった社会に違いない
搾取はいたるところに蔓延し
高き地位の神々は働きもせず
目見はるほど豪壮な天の城に住まわれる
身分の低い神々はまめまめしく動きまわり
米と塩しか食えない奴隷のように主人に仕える
天国では平和にもお目にかかれない
ヤクザの社会のごとく年がら年中戦(いくさ)にあけくれる
鬼と闘ったかと思うや今度は人間と闘う
毎日毎日 神々の死体の山累々
悪党のヤマノカミもまた気が短い
好物は……一風変ったことに、大盃入りの血
山羊と人間を殺しては犠牲(いけにえ)にする
子どもまで殺せればこれまたいっそう驚喜する……変態!
福祉など爪の垢ほどもない
油断するといつどこで痛い目にあうか分からんぞ
革新? そんな思想にかかずらうのはやめたまえ
進歩思想の持主はみなやられる
考えれば考えるほど分からなくなるだけ
いったい何なのだ、天国(サワン)それとも地獄(サワ)?
こんなひどいところを誰がいい国だと言うものか
人間の国であってこそはじめていいと言えるのだ
奴らはおれたちをあの手この手で欺き
天国とは歓喜に満ちたところだと信じこませ
飢えに耐えることが善であると思いこませる
来世には幸せになれるかも知れないと
おれたちは期待し、期待し、期待しつづける
一方奴らは搾取、搾取、搾取をかさね富を築く
おれたちが騙されるほど奴らはいっそう収奪する
おれたちは阿片に蝕ばまれるごとく借金に侵され
来る日も来る日もためいきをつく
天よ、いったいいつの日にわれらを救いたもう
ただじっと耐える……これが運命なのか
奴らは寝そべってほくそ笑む……おれたちは運がいい!
同志よ、もう分かったはずだ これが因果関係だということが
力を合わせ、なめくじ、蛭の輩(やから)を追いだせ
搾取、吸血、殺戮
これがなければ人類の不幸は消滅する
天国では見出すことのできなかった平和を
われらの手で築くことはたやすい
ただ一つ、死を恐れておじけづかぬこと
同志よ、黙して待つのではなく、勝ちとるのだ
戦争、それは二つの階級の間の
矛盾そして対立
搾取するものは満ち足りるまで吸いあげ
搾取される者はそれと闘わざるをえない
もう一つの戦争、それは搾取者同士の
衝突と奪い合い
われらはかりだされて何千となく犬死する
われらが戦場(いくさば)にある時、奴らはたらふく食って笑いが止まらない……これはいったい何だ
固く心を合わせ
揺ぎない意思をもって連帯しよう
搾取の軛を解き放つために
極悪な人非人どもにうち勝て
奴らと闘え、闘うのだ!
鉄の意志と規律をもって
堅固な前衛を組織するのだ
奴らは完膚なきまでうちのめされる
われらの持てるもの、それは
くぎでしっかと打ちこまれ
ガランゴロンと耳を聾する鎖のみ
これこそわれわれ誰もがかなぐりすてるべきもの
この鎖を切って投げすてよ
君よ、なぜこの大きな足枷を名残惜しむのか
鎖をすてて輝かしき平和をつかもう
この手で地上に楽園(サワン)を築くのだ
シーナコン
一九五七年『ニティサート』
バンコクの栄光を讃える詩
第一部「近代化」時代のバンコクを讃える詩
〈ライ・パタナー〉
オーム 荒廃せし地 煮え滾る国土よ 空血の色に染まり呻き声あげ よからぬ噂、巷に広まる ああ……近代化の時代 大悪党が権力握り 人民辛酸を舐める餓鬼(プレート)吠え哮り ペロリペロリと舌舐めずりし ギロリギロリと歯をむく 獲物とっては殺し したたり落ちる鮮血腹ふくるるほどに吸いこみ 満腹して奇声を発する 手には棍棒、口では道徳 足出せば踏みつけ 手出せば槍 腕まで出せば銃向ける この残忍にして蒙昧なる性(さが)……
惨めなるかなバンコクよ 不滅の都ラタナゴーシン
ああ……インドラの都を妖怪が荒々しく踏みにじる この災禍(わざわい)をいかにせん
〈クローン四(シー)スパープ〉
タイ、この狂気の時代よ これが近代化なのか
偉大なる指導者 男のなかの男
どの時代にも 比肩しうる者なき鉄人
あらゆる時代の鉄が 例外なく敗北を喫する
強大なる権力は 獰猛にして残忍
正義を踏みにじり 嘲弄する
拳銃こそ法律 拳銃こそ至上命令
「全権は朕より出づ」「国家則ちおれのこと」
一七条用いて 民を殺戮し
路傍の犬同様の 製糞器
人を人とも見ず 愚かな水牛と見做し
首根っこ押えつけては 「黙れ……黙らないと殺すぞ」
〈ヤーニー〉
「われこそこの近代化時代の 国家と歴史を築く者
誉れあるこの名を わが民に知らしめん
おれが作りおれが請負い すべてはおれの懐(ふところ)にころがりこむ
各省庁の計画も おれの一手に握られる
特権与えた企業は すべての門戸閉じて独占する
入札は豚をしめるごとく 利益は面白いほどころがりこむ
虎たるもの縞を誇り 男たる者名を尊ぶ
おれは厨の虎 寝そべって喰えばいい」
はなばなしきうたい文句 大声で吹聴し
そのかげで巧みな舌 民衆を欺く
奴は双手で奪いとりながら 近代化だと叫ぶ
これ知る者よ、黙して語るな 黙々として悲しめ
……黙して語るな ……黙して語るな
……黙々として悲しめ
されどなお人は人であり 無知蒙昧な水牛ではない
なぜなのか、手こまねいて 敗北を甘受するとは
空は血しぶきに染まり 地は煮え滾り
すべての生命あるものが滅ぶとも 人はなお抗う
暗黒の時代には 銃弾が国を治める
律法(おきて)は滅び去り 血腥い臭気がたちこめる
されどなお人は人であり その流れは尽きることなく
星辰のごとく不変に この地上に輝く
銃をとらばとれ 彼奴は民を賤しめ殺す
おまえの心は選びとった銃よりも 果てしなく強い
流された血の臭気は 地中に浸みこむ
絶えずふるいたて 悪党どもを一掃するため
暗い闇夜の後には 必ずや新しい朝(あした)がひらける
闇を破って曙光は 全地平に挑戦(おどり)かかる
そして誰も彼もが 首(こうべ)を上げて立ち
堂々と宣言する 「われは奴隷に非ずタイ(自由人)なり」と
タイなり……!
第二部 ヒランヤックは国を覆(モアン)す
〈ライ・パタナー〉
オーム 溶かせ溶かせ溶かし尽くせ 水牛角ふりたてて天を穿ち 猛り狂うその眼(まなこ)は炎のごとく燃え バリバリと地噛砕き ガツガツと密林呑み尽くし 醜く頬をふくらます ヒランヤックの性(さが)ひきずり 地獄破り 地裂き悪魔の時代の絵巻物ラーマーヤーナより生まれでた 傍若無人にのっしのっしと歩きまわり 仲間呼び集め 手下ども従え 三度雄叫びあげて 突進する ……おれは都を滅ぼす 不滅のラタナゴーシン・サヤーム この国を呑み尽くそう……オーム……
残忍、獰猛な権力ふるい 独裁者は侵略する
指揮杖とって先頭に立ち 鬼将軍は国を覆(モアン)す
ああ、おまえはカチョーンの花 丘の果てまで這いあがり巻き尽くし 骨壺に入るその瞬間(とき)まで巻(モアン)きついたものをはなさない
〈クローン四(シー)スパープ〉
サヤームの都、狂気の時代よ これが近代化なのか
民草は求めども求めども 田得ること能わず
暴君どもめ 知れわたっているぞ
何万ライもの土地 占有している事実
いったいいつの時代からか 父祖たちが切り拓いてきた
広大にして はるかにつづくこの土地を
瞬時に呑みこむ いぎたなさ
密林喰い尽くし 悪のりする象の帝王
保護林はいたるところで絶滅する
外側の緑だけ残し 中身はみな伐り倒し
口では美辞麗句もてあそぶ
「誰だ、樹伐る奴はタイが滅亡するぞ」
〈グロン六(ホク)〉
田畑、密林、草原といえど 残らず将軍丸呑みにする
国有林、国有地、没収し ひそかに移す所有権
左に鞭、右に拳、両翼広げ 人は恐れて逃げまどう
国家の資産、パッパッと 将軍の懐に流れこむ
ほう、これはいい、エビの養殖池 そっちはたしかに牧場だ
これはまたうまそうな果樹園じゃ、と頬たるませ ははん、あっちは鉱山じゃな、とかぶりつく
法律は五〇ライこえる 農地の所有を禁ずる
こんな恥知らずで悪質な 法律などやめてしまえ
土地に飢え身震わせ 耳まで真赤にして強制して売らす
「開発」だ「開拓」だといいふらし 利益をむさぼる
わずかに上がる批判の声 狂ったように叩きのめす
この土地、タイの国土は すみからすみまでおれ一人のもの
非難の声には厚顔にも答える 「おれだ、おれの勝手だ」
まさしくこういうことだ……「干渉するな小僧め、殺してくれる」
流行の先端きって近代的農場作り 国のトラクターかき集め
水牛のかわりに使う 徴兵した多数の兵士
おれのために、交替で畑させる 国が徴兵したものをおれが使って何が悪い
国家だと、それはこのおれ様……ああ、狂気の沙汰
道路、用水、公共事業 みな「あの方」の鉱山や農場につながる
「国庫金」、「開発計画」、「国家的大事業」 すべてはおれのためにある
〈ウィチュマラー・チャン〉
独裁の泥沼のなかの 幾歳月
貧困にあえぐ民衆は 幾百万世帯
ああ、この土地おれたちが耕す土地
おれたちが住む土地 まるで石器時代!
胸ははりさける その民族の名はタイ
おまえの主人に 土地の所有権はない
その土地はどの一片も みなタイと呼ばれる
それなのにタイ人は タイから土地借りて耕す
タイ民族のほとんどが 地代の奴隷
タイとは民族固有の名 けれどその土地はどう呼べばいい
地代に収穫(みのり)の半分も とっていかれる
ああ、これがタイ(自由)なのか 土地の奴隷
水牛や牛のごとく 働けと働けど
とりつかれた地代 いつ果てるとも知れず
先祖代々 糧得るため働きつづけ
土地もなく 貧困の奴隷となってきた
〈ヤーニー〉
タイを名のるタイ人に ふさわしい自由(タイ)はない
自らをタイと呼ぶことは 死にいたるまで己を欺く
ハッハッハ!
〈グロン八(ペーッ)〉
かつて……
希望は
煌々と照る月にも似て、澄んだ光投げかけ
天の真情水のごとく 蒼穹潤し
雨滴となり心潤す
艱難辛苦人うちのめすときも
希望は堅く揺がず
希望は心暖め、心支え
闇夜あかあかと照らしだす
黄金なす田なくば
誇りもって闘いとろう
森林原野を開墾し
みずみずしい田園に蘇らせよう
黄金色の織物織って田畑をおおい
苗を一本一本植えつけよう
稲田は色づいて黄金色に輝く
地上のすべては、人の手によって栄える
天にとどろく雷鳴にもまさる勢いで
大音声に呼ばわり闘い挑む
天使たちも聞かば聞け
人の手は密林を耕地に変える
双腕は尽きることなき力の泉
したたる汗は灼熱の太陽嘲り
原始林拓き緑したたる田園となす
ああ、しかるに……悪鬼はこの地を略奪する
「ほう、これはいい土地だ、気に入ったぞ
あのうすのろどもを一人残らず追いだしてしまえ
どこのどいつだ、地上の主人(あるじ)に逆らう愚か者は、
一発どてっ腹にぶちかましてやれ!」
ウーイ、一発……どてっ腹にぶちかましてやれ
別れ
もう去らねばならぬ、愛するこの田を
悪辣な独裁者がこの手からもぎとった
心斬りとられ血はしたたる
ああ、わが土、わが田よ
流れ落ちて浸みこんだわが汗は
地中深く広がって憤怒の血潮となる
汝はわれら人民の血を吸いとる
砂の城
天上より音たてて崩れ落ちる
幻想の城、美しき希望が
夢幻にいざない、はかなくも崩れ去る
あたかも雨激しく空を打ち
大地を潤して降りそそげども
旱魃来り、人は鶴首して空仰ぐ
無残、風、雲を呑みこみ運び去る
あきらめ……
手あげて降参するのか……ああ!
ひれ伏して敗北を甘受するのか
惨めにも……いともたやすく、恥を知れ!
闘い
誰が軛に繋れることを好もうか
軍靴に踏みしだかれるとも
壁にぶちあたるともタイ(自由人)らしく闘う
大地に足ふんばって闘う
怒りに燃えあがる血潮でこの地護り
死んで埋められてもなお闘いつづけ
全地上の勇気ある人びとの誇りとなる
〈グロン・ボットラコン〉
頭に血上った
独裁者は、怒り狂いどなりちらす
「オイオイ、公安、さっさとかたづけろ
こいつら共産主義者はタイを滅亡させる気だ
タイの国家だと? それは他ならぬこのおれだ
おれに逆う闘いなど断じて許さん
おれを倒すことはタイを倒すことに他ならぬ
全員ひっとらえてブタ箱にぶちこめ……土地はとりあげろ!
はっはっは……土地はとりあげろ!
〈ヤーニー〉
これが新しい時代 近代化と称する
人民をなぶり殺す血の時代 悪鬼、国を略奪する時代
それでもなお人は人であり 貧しくとも心は豊か
その力は偉大 人間の敵に立ち向かう
おれはタイ(自由) 奴隷の身分に誰が耐ええよう
「自らをタイと呼ぶことは 死にいたるまで己れを欺く」
幾度敗北を喫するとも ひるむことなく
われこそタイなりと世界に誇るまで その名にふさわしく闘いつづけよう
〈クローン四(シー)スパープ〉
タイというこの語(ことば) ああ、まさに奇跡か
それは勇敢にして 誇り高き民族の名
不正をしのび 奴隷に甘んじることはない
昂然と天を仰ぎ 不正を追放するのみ!
第三部 ハヌマンは館をしゃぶる
〈チャバン〉
ああ、偉大なる都バンコク 開発者は
寝そべってつぶやく 近代化と
タイ人はかしこく 巧みな職業を開発する
驚くべき魔術的職業
まことに重要な商品を 競って売買する
「宝くじ」という悪辣な商品
尻につぎあてたうす汚れた子どもが 走りまわって
「当りくじ番号、当りくじ番号」と売って歩く
朝となく昼となく夜となく出会うこの光景 よく売れるものだ
当りくじ番号がとびかう
そこに闇宝くじが 商売として登場する
政府発行宝くじにならぶ勢い
えらい高僧が 当りくじを占う
超能力者が続々登場する
民衆は欺かれ はずれくじに青ざめ
骨身けずられ死ぬ思い
胴元はまる儲けでほくそえむ 奴らはお偉力の
走狗……こんなことぐらい朝めし前!
民間の宝くじ、政府発行宝くじ ともに花開き大枝をのばし
国家経済の主要な根幹となる
国家建設の大動脈となる 笑いごとではない
この国家こそ「おれ」だときている!
〈クローン四(シー)スパープ〉
サヤームの都、狂気の時代よ これが近代化なのか
大衆は家財道具はおろか 無一文
ところがどうだ 暴君が息絶えれば
遺産は三〇億バーツ めくるめく
この金は 母の胎内よりもって生まれたのか
それとも天からの さずかりものか
ガツガツと 国、貪り喰らい
かくも巨万の富を築く
オーム……
ハヌマンは現世に生まれかわる
「おれは館をしゃぶらないぞ」
「おれは近代化時代の猿だ」 なるほど!
「館でなしに宝くじ局だ」 言うが早いかしゃぶりつく
〈プレン・グローング・ヤウ〉
ドドン、ドドン、ドドン……
おっと出た、出た まやかしの帝王猿
おまえは館をしゃぶろうとはしない
現代のハヌマン、近代化時代の猿
タララッ
おまえは全土を席巻し 働かずとも
富はいや増す タララッ
ヘっぴり腰して かぶりつき バリバリ喰らい
ひっくりかえって 国中に醜態晒す
フイハー・ハー!
〈グロン・プレン・チョイ〉
おお……不可解
汚職 大手ふってまかりとおり
権力の乱用 堂々と
触手のばして 宝くじ局
完全におさえこみ 「おれのもの」
国庫金の着腹 裏から裏へ
じゃんじゃん分配し 喰らい放題
宝くじ二組にし 二重に喰らい
秣喰(は)む馬みたいに 口汚し
国家機密たてにとり 次々小切手きり
爺の あの娘(こ)たちにくれてやる
タウナスに乗せ 女中部屋つき屋敷買ってやり
大ダイヤモンドの指輪 燦然
何億バーツもの 国家機密予算
湯水のごとく 浪費する
陸軍の予算 特別に多くし
虎野郎めの 鴨にする
兵士のための 福祉予算
それまで つまみ喰いするとは
国の福祉は おれの福祉
おれの女房の ピンクダイヤの首飾にする
ああ、無惨 政府軍の兵士諸君
一バーツの金も おがめない
寝もやらず 心身すりへらし
忍耐強く敵警戒し 勇敢に任務につくはずが
あの娘(こ)たちの召使として こき使われる
ああ、このおれ 勇敢なる兵士が
蔑まれ 国軍兵士の名誉も
誇りも失い みじめにも
売女どもの 奴隷
国を護るはずの者 爺の妾どもの警護につく
タイの国土は広大無辺 とは誰のたわごと
阿呆らし 掌(てのひら)ほどの土地警備する
おまえはカチョーンの花 夜明けに花開く
蚊帳の中だけで 香り放つ
福祉予算という名の 浪費
泣きをみるのは 兵士たち
チャーエーチャーチャー チャー ノーイメーウーイ
〈ヤーニー〉
憤怒に 腹わたは煮えくりかえる
おれたちの誇りは 悪鬼の手で荒廃する
従順(すなお)に慕った男は 大悪党
誉めそやした勇敢な男は 暴君
人の上なる人と 崇め
耐えつづけたその報酬は 虚偽
おれは男 雄々(たけだけ)しき兵士
もって生まれた尊厳を いつくしむ
誇りは星辰のごとく あまねく全地におよぶ
人ならぬ下僕のごとく 蔑まれ
男の誇り傷つけ 人前で辱められる
この暴虐を 誰が許しておこうか
〈クローン五(ハー)パタナー〉
価値ある存在 それは人
尊厳は 大地にとどろく
蔑み虐げるのは やめろ
天までおよぶ権力も 必ずや転覆する
人は地上に 闘いを挑む
その尊厳 天をも揺がす
踏みつけられても 昂然と
刀打れ、矢尽きる そのときまで
〈ヤーニー〉
おまえはかつて公言した 数ある呼称(よびな)の中で
「国民の誇り」という名ほど 心を溶かすものはない
この名はなんと感動的に おれの心に刻まれた
生命尽きるまでこの名護り 人びとの記憶にとどめよう
これが護るべきものか ああ、指導者?
おまえは言葉巧みに その裏をかき人を欺く
「国民の誇り」と ひたすら信じ
自らを捧げ 死をも恐れず従った
おれは武器とって 「旧体制を革命する」
ところがそれは 武器による国家略奪
おまえはおれの名でつまみ喰いし 何の恨みがある
そこかしこで上がる非難の声は おれにまでおよぶ
因業なこった 身の破滅だ
気づくのが遅過ぎた さあとってかえさねば
いくら憎まれようと おれはおれだ
鬼に呑まれた威信とりもどし 民衆に理解させる
おれは兵士 栄えある経歴の持主
タイの国土を 護りつづけてきた
タイ兵士は名を売らず 国を売らず、魂を売らぬ
地位、栄誉、信条は 飯(めし)のために売り渡さぬ
全人民のため 名誉ある死をいとわぬ
彼らの頬伝う涙も かわくほどに……
良い指導者には どこまでもつきしたがう
ろくでなしの指導者には 憚ることなく反抗する
その心意気や堅し 火に試めされた鉄のごとし
患部はためらわずに 切りとらねばならぬ
手下ども、鬼にかわって 吠え哮るとも
無数の障害たちはだかるとも 一歩も引かず前進し
悪鬼には憎しみを 善人には愛を、捧げよう
結合された力は 化けものを倒す
おまえの声は妖怪の声 舌先三寸で人を欺く
暴露するぞ この悪虐さ
現代、この新しい時代の タイの兵士は
化けものどもを一匹残らず 退治する
残忍な吸血鬼は 全滅する
おまえが吸った甘い血は 咽喉を刺す苦(にが)みとなる
真夜中に出没する魔物よ あまりにも長過ぎた
曙光がさしはじめると おまえは逃げだす
溢れる曙光 それは手をこまねいていてはやってこない
人の手で天上より この地上にもたらすのだ
燃えあがる暁の太陽 つくり
タイという名の黄金の地に 全生命を甦らせよう
〈クローン五(ハー)パタナー〉
心を 合わせ
尽きることなき 大いなる力結集し
妖怪悪鬼の 災厄(わざわい)から
人類を 救いだせ
勝利はやってくる
日の光は あまねく空をめぐり
生きとし生けるものに 生命を与える
光輝地上を包み 天にまでいたらん
ガウィー・ガーンムアン
日刊「プラチャーティパタイ」一九六四年六月二三日、
七月一〇・一一・一二日号
新聞の良心(ウインヤーン)
〈クローン四(シー)スパープ〉
滑稽、滑稽 大馬鹿野郎のど阿呆!
どこからどこまで 真黒けの炭
洗う……いったい炭が 輝くように白くなるものか
炭の粉とびちり 自分の顔にかぶる!
炭みたいに肚黒、残忍 蒙昧なる男
肉ひっつかみむさぼる ムシャムシャ
こびりついた炭の粉 やたらかきむしる(猿め)
「炭は黒くないぞよ!」 とわめく……ヒッヒッ!
民衆は手打って 呵々大笑
おまえは食い足りて 咽喉まで一杯
尻尾出かかると あわてて隠しとりつくろい
「見てはならん 絶対だぞ」
〈ヤーニー・ラムナム〉
グイグイアウフイハー
おまえは大馬鹿者で 生来の肚黒
悪党(ならずもの)に変身した 新聞記者
誉れ高き職業の 理想を裏切る
新聞の武器 それはぺンという鋭い刃
研ぎすまされた槍 明るく照らす松明
いついかなる時にも 民衆の声代表し
悪を暴き 正義を護る
悲惨な現実を写しだし 隠された原因をつきとめ
大いなる目標と 進路を指し示し
傍観者として 生きのびるのでなく
優れたぺンの力で 民衆の戦線に加わる
金の槍は勇猛 中立はありえない
民衆と肩ならべ 民衆の側に立つ
黄金色の松明は道照らしだし 真理指し示す
熱く燃えるその光に 悪鬼はたちまち退散する
これこそすべての理想がかかげ持つ 行動の指針
最後まで護りぬくべき 誇りと尊厳
胸奥に煮えたぎる血 湧きたつ思い
ただ一つのこころ 新聞の良心
けれども、見よこの悪しき性を 残飯にありつき
その味に酔い痴れ すべてを忘れる
誇り、尊厳 理想そして良心も
金貨のまばゆさの前に おし黙る
ガツガツむさぼり喰う その食欲は底なし
ムシャムシャかぶりつき 満腹して上気嫌
飼育用の金貨 何ものにもまさる恩恵(めぐみ)と崇め
透きとおった米の水 死を賭すほど美味
人を水牛と蔑み 人民をかえりみない
主人(ボス)のくれた米の水は おまえの心を悪に染める
飯握り食う(プープカーウ)たびに 思い起こせ
おまえが食(は)むはわが汗 おまえをはぐくみ育てた
すべての階級の民等しく味わう この味
そのかげには困窮と 身細る苦渋
稲穂実るまでの労働 長くつらい道のり
稲穂、米粒になるまでも 貧窮、困窮あるのみ
流れた汗のどの一滴(しずく)も 苦しみの汗ばかり
おまえが口に運ぶ時までに やせさらばえて幾条にも筋ばる
汗は乾くことなく 労働は尽きず
今おまえは噛みしめる われらの血の結晶
おまえは意地汚い大食漢 たかが残飯ごときに有頂天
そのご恩に報いようと 日毎騒々しく吠えたてる
おまえは満腹して 恥を忘れた新聞記者
主人(ボス)にへつらい 死んでもその亡霊に忠実な番犬
手にとった槍は 流れに逆い
悪鬼を護り 義なる者に斬りかかる
金の槍は奴隷の槍となり 金の値打ちを失う
黄金色の松明は悪党の 血の色のようにどす黒い
おまえは新聞が記事を 捏造していると断罪し
悪意をもって中傷し 歪曲し火をつける
今それは明白 委員会が調査し
汚職事件の全貌を 徹底的にとり調べる
捜査がすすめばすすむほど輪は広がり 都を震憾さす
蚊帳の中の話、外の話 みな明らかになる(どうかね、君)
おまえは日刊の奴隷 なんたる恥知らず
妖怪の走狗、狂犬 のように跳ねまわり
正しく報道した新聞を 罵倒し罪を着せ
悪を隠蔽し 顔赤らめもせず歪曲する
四方に偽りを吹聴し 八方を騙くらかす
陰謀、策略はりめぐらし 事実をおおいかくす
狂奔すればするほど 真実は露呈するもの
おまえたちは牛のように頑迷で 「政治ゴロ」なる悪党
非難の声は八方からあがる 恨みに満ちた声が
民衆の胸奥から 燃えあがる憤怒
見ろ、生来の肚黒 まだ悪あがき
唾吐きかけられても 餓鬼(プレート)のごとく平然とし
妖怪仲間求め ひときわ高く遠吠えす
どいつもこいつも人丸呑みにする 悪魔ども
おまえは辛抱強く真実かかげる 新聞をさか恨みし
奸計弄して 転覆ねらい
最後の手段「赤い経」となえ 弾圧する
畜生……汚い奴 これでもタイを名のる
大声で人騙す 商売
妖怪よ、誰を欺く うぬぼれるな!
〈クローン五(ハー)パタナー〉
人、妖怪に 屈せじ
凶悪な餓鬼(プレート) 組みつけど
人の力それを 叩きのめし
足下に ねじふせる
タイよ ひるんではならぬ
タイは 無気力だったことはない
人を化かすのは 妖怪ではない
人を化かすのは 生きた人間の舌
バンコクにもう 森はない
妖怪が好んで出る 暗い森は
出るのは生身の妖怪と その一味
国滅ぼし 姿くらます
〈ヤーニー・ラムナム〉
タイを愛し正義求める 新聞記者よ
迫害の手およぶこと恐れ 沈黙してはならぬ
貧困にあえぐとも 堅き志操に立脚し
思想の一片たりとも 飯のために売り渡さず
自由と正義のためには 死をもいとわぬ
その行為 すべての人の心に刻まる
民衆こそ主人 その価値何ものにもまさる
役牛田を鋤くごとく 首(こうべ)垂れて彼らに仕えよ
新聞の良心は 色あせることなし
右手に金の槍 左手に松明かかげ
何ものをも怖れず 力強く前へ進め
優れた職業に 自信と気慨もち
人民の利益 無頼の徒から護り
怪物どものとなえる念仏に 身を挺して抗い
民衆とともに 「赤い経」と闘え
タイの心は忍ぶ心 やむことなく自らを助く
闇、タイという黄金の地 おおうとも
おどろおどろしき悪魔め 人を喰えると期待するな
ああ、記者諸君 心あらばもちこたえよ
怖れるにはおよばない 民衆の戦線は幅広い
おまえ一人で 歩むのではない
おまえの同胞は この大地を黒々とうめる砂粒ほど
数多く 貧困にさらされている
孤立している者 それは汚職で鳴らした大盗賊
蔑まれていた おまえのそのか細い手を
繋ぎ合わせて 強大な一つの手にするならば
この地球上のどんな手にも まさる力を得
胸はって神々にすら 闘いを挑むだろう
あきらめに 消えいりそうなおまえの心を
民衆の心と一つに 結び合わせるならば
恐れ知らぬ 団結の力を生む
その心、鋭くきらりと 光放つ鎌
この心とこの手 みごとに結ばれる時
人脅かす妖怪も ふるえあがって足下に跪く!
……然り、足下に ふるえあがって足下に跪く!
……足下に!
畜生、梶棒ふりかざし 口で道徳説く化けもの
残忍で頑迷なこの性を 勇猛と呼ぶのか
タイの心は自由(タイ)愛し その手辛棒強し
タイの手と怪物の手 がっぷり四つに組みあう
……やれやれ、もっと烈しく闘え! もっと烈しく!
新聞の良心は 暁のように広がる
焔くぐって鍛え抜かれた 者を残す
タイの名に 価する新聞記者を
民衆は褒め称え その仕事を賞讃する
思想裏切る 新聞記者を
民衆は非難し 末永く忘れない
人の名に 価する新聞記者の
空翔ける虹のごとき 名声は落ちることなし
金のため 身売った新聞記者の
汚名は子々孫々にいたるまで 犬の皮に刻まれて残る
虫けらどもは 死んでなお汚物残す
その土台は揺らぎ 今にも崩れんばかり
ああ、友よ(まだ友と呼ぼう) 今一度警告する
これ以上頑迷で 愚かになるな
「おまえは悪人に忠実 タイ人を裏切る
父祖たちのこの罪業は 末代の恥」
おまえは歴史に 書き記されるだろう
タイの都に住んだ 人間のくずの見本として
これが最後の警告 恥を知らぬならやむをえない
遅過ぎて 後悔の涙にくれることがないようにしたまえ
旧友より誠意をこめて!
ガウィー・シーサヤーム
日刊「プラチヤーティパタイ」
一九六四年八月九、一一、一二、一四、一五日号
サヤームのこころ(ウインヤーン)
〈イーティサンチャン〉
ああ、サヤーム 夜のとばりおりるころ
闇、天をおおい 冷気わたる
地は煮え滾り 血はほとばしる
風、ごうごうとさかまき 破壊し去る
残忍非道な妖怪悪鬼が
飢えて 咽喉(のど)を鳴らす
餓鬼(プレート)、ワウー、ワウィウ、ワウォーイと吼えたけり
ワナワナと身をふるわせる あな恐ろしや
眼(まなこ)はギロリギロリと 人を見据え
ペロリペロリと出す舌は 恐怖で人を失心させる
騒々しくかぶりつき 咽喉につかえてのたうつ
おれの喰うおまえの血は 真赤
ウーイ……真赤……ハッハッハ!
……真赤な血!……
真赤!
〈クローン四(シー)スパープ〉
飢えた悪鬼(ピーサート)の咆哮に 怯えたのか
おまえはうちふるえて涙を流し 俯いた
怖気づいて災禍《わざわい》に拝跪し 死んだふりをするのか
膝を屈して世界の もの笑いになるのか、サヤーム
ああ、サヤーム……膝を屈して世界のもの笑いになる……世界のもの笑いになるのか、サヤーム?
〈ヤーニー・へー〉
サヤームのこころよ なぜ災禍に怖気づく
一握りの化けものに 従順に身を投げだし
ぬかずいて抗うこともない
恥知らず、タイよ みじめな姿を人前にさらす
馬は距離で分かり 人は時間(とき)が証明する
退く者、耐える者 災禍の時に明らかになる
獰猛な化けものは 血の最後の一滴をまで吸い尽くす
サヤームのこころよ かくまでふるえおののくのか
否、否、絶対に否!
〈グロン・スパープ〉
ああ、タイ 奴隷でないとは なんと美しい呼称(よびな)
高邁な 自由と権利を 体す
「タイ」この名は誇り高く こだまする
この価値を 永遠(とこしえ)に 保持せん
〈クローン・ウィチュマリー・イサーン〉
天界の権力 地上おおい尽くし
妖怪変化どもはのさばれども われは闘う
死を賭して 奴らを滅亡し尽くすまで
いかなる障壁立ちはだかるとも この手でそれを取除かん
〈イーティサンチャン〉
見よ……残忍な妖怪が咆哮する様を
騒々しくかぶりつき咽喉につかえてのたうつ
おれの喰らうおまえの血は 真赤
しかれども……
たとえその血がひびわれた大地に浸みこもうとも
サヤームよ ふるえおののいてはならぬ
タイは悲嘆にくれるのか 否
天は嘲り地闘いを挑むとも 恐れはしない
人間、妖怪 恐るるに足らず
広まりゆく人の輪は それを滅ぼす
力強き手と驚くべき強靱な心は
何者にも勝る 力を集積する
わが国土は津々浦々にいたるまで
憎しみに燃えたぎり 復讐に猛り狂う
天は混乱の坩堝と化し
天上の楼閣は嵐の一吹で 消え去る
怪物の吸った甘い血は絶えることなく
燃えさかる炎となって 咽喉(のど)を刺す
あふれでるその勢いは城塞を成す
苦しみの軛を解き放って起て 断固として
然り 断固として 起つのだ
〈ヤーニー・ラムナム〉
人喰いの妖怪 いかに多勢なりとも
滅びいくのは妖怪 人の存在は尽きることなし
苦難にあえぐとも 挫けることなく
悪党(ならずもの)に勝利する 「人」それは誉れある呼称(よびな)
耐え難きほどの苦難は かえって人を鍛えあげる
長ければ長いほど 人は鍛えられて強くなる
幾多の苦き想いは こころの奥深く宿り
赤黒き怒りの炎となって 燃えあがる
鋼鉄(はがね)は赤く煮え滾る 炉(かま)より生まれる
炎が激しく燃えあがるほど いっそう堅き鋼鉄(はがね)となる
限りなく勇敢なこころは そこに生まれる
こころ……毅然たる民族魂 が陶冶される
サヤームのこころ おまえは堂々とこの地上に挑戦し
己が道を切り拓き その時期(とき)を用意する
来たれ、サヤーム 冷めることなき熱き志をもて歩め
行く手さえぎる 峻険な峰揺がし
血の色をした渓流をも 怯えて干上がらす
燦然たる陽の光 天へめぐりこの手照らすとき
人は人となり 人のこころは尊ばれる
タイの名は広まる 女も男も真(まこと)の人なり、と
〈イーティサンチャン〉
然り……女も男も 真の人なり
あふれでるその勢いは城塞を成す
苦しみの軛を解き放って起て 断固として……
女も男も そしてやがていつの日にか
天空は晴れわたり 虹は鮮かに空を翔ける
人は誇りをもって 首(こうべ)をあげ
日毎夜毎蓄えられた貧民の力
友愛を基にした 世界を築く
日の光に怯える妖怪
黎明の威力の前に 身をふるわせて跪く
地上は輝きに満ち花ほころぶ
サヤーム おまえの民のこころは湧きたつ
ああ、サヤームのこころ 夢想(ゆめ)のこころ
希望の中のこころよ……
われはわが手でそなたをはぐくもう……この小さき手で
〈クローン四(シー)スパープ〉
タイは妖怪悪鬼どもに 呑みこまれたのだ
かつてその強さで 勇名はせたタイ
サヤームのこころよ なぜ膝を屈したのか
敢然と起て 妖怪どもを一掃せよ
希望はまだ 消え尽くしたのではない
太陽が燦然と 空に輝くかぎり
人はたゆみなく 闘いつづける
その希望を 実現するために
ガウィー・シーサヤーム
日刊「プラチャーティパタイ」紙
一九六四年一〇月六〜八日
牛鈴によせる恋歌
まだ明けきらぬ仄暗い空
小鳥はきぜわしくとびかう
陽が昇りはじめる頃
若い娘が上がってくる
そなたはみめうるわしく
生々としてこころ優しく
男たちの夢さそう
身軽な足どりで愛らしく上がってくる
はっとする美しさ
両手軽くふって
そのふっくら丸い腕を
いちばん美しい人、そなたよ
牛の鈴の音に舞うよう
ディンロンロシラー ディンロンロンラーラー
そなたは見まわす
あの叢(くさむら)、この叢
そなたは見つめる
あの枝、この枝
そなたは摘む
パクワーンの一枝一枝
なんと美しい
小さな手の踊るような動き
ディンロンロシラー ディンロンロンラーラー
わたしのやさしい人
そなたはなんと美しい
なんと働き者
何よりも労働を愛す
わたしの愛、わたしのこころをそなたに捧げたい
美しい人 そなた一人に
ディンロンロンラー ディンロンロンラーラー
ああいとしい人
わたしの財産はこの身一つ
仕事は牛飼い
聞こえる調は牛の首の鈴の音
ディンロンロンラー ディンロンロンラーラー
ああわたしのいとしい人
わたしは貧しい
そなたに捧げる契(ちぎり)の品
それは労働
ディンロンロンラー ディンロンロンラーラー
詩・曲スタム・ブンルン
故郷の呼び声
黒い緞張のような 夜のとばりが下りる
胸ふさぐ 痛みのように
家引き裂かれた者に 暗く重くのしかかる
土地と自由と人権と 人間の尊厳
勝ちとるため闘い 家より遠く引き裂かれ
見捨てられた森のように 葬り去られたこの歳月
大空自由に飛びまわる 鳥のように
生々と満たされていたわれら
われらの愛する地 一〇〇の城にもまさる
かつてのあのうるわしき夢
今も心を満たしつづける
その希望とりもどす日堅く信じ
空のかなたから呼ぶ声がする
かなたから響く ああ、故郷、わが宿
その声は高く低く絶えずわれらに呼びかける
詩・曲 スタム・ブンルン
希望の星
無限のかなたから きらきらと夜空に
透明な光放つ 星よ
心服らす 赫き燈火(ひ)
苦しみのりこえて進む勝利の旗にも似て
嵐吹きすさび 月は隠れ
闇支配するときも
希望の星はその上に輝き
たゆみなく人の心をふるいたたせる
困難、貧困、茨の道も 来たらば来たれ
人はなお敢然と立つ
たとえ暗黒の空 月消し去るとも
星はなお希望の光放ち 地上を嘲ける
黎明の光さすまで 星は燦く
詩・曲 スタム・ブンルン
希望未だ尽きず
おれたちの運命は真暗闇
言い尽くしえぬ貧困と悲惨
搾り取られ痛めつけられすべて失い
無一物 唯一つ持てるもの、それは労働
何よりも安い価格で切り売りする
胸ははりさける
おまえはどこにある 正義よ
かぎりなく悪辣な社会 おれたちを踏みつけにするな
絶望心挫くときも
力尽きて希望見失うことあるまじ
生命あるかぎり この二つの腕で
正義勝とり 正義蘇えらせ
天と地の誇りとならん
詩・曲 スタム・ブンルン
血の決済
目覚めよ わが民
立ちあがれ、闘って奪い返せ わが生命
残忍な弾圧で わが大地は血塗られた
独裁者の残虐な赤き血の負債
積もりに積もるこの歳月
奴らは国家、人民を略奪する
タイ愛する者を威し殺戮する
血は血で贖われねばならぬ
起て 血は血で贖われねばならぬ
われらの内なる恨みはらすため
撃て パンパン われら人民の子
奴らの血でタイ人民の血を贖え
詩・曲 ジット・プミサク
革命の地プーパン
空を圧してそびえたち
山並はるかにつづき、頂上(いただき)は高くきわだつ
プーパン、愛する地、タイのふところ
党の赤旗はその頂上(いただき)にひるがえり
嵐に抗して揺ぐことがない
時代の光は、東から上がる太陽のように
恐れず信念をもて勝利へと導く
プーパン山の戦士、民衆の兵士は
忍耐強く決然として人民のため生命(いのち)を奉ぐ
原始林、渓流、峻険なる山々、いずこへも
われらはもぐりこみ、闘い、耐え抜く
銃声はとどろき全地を脅し
大砲炸裂し雨のごとく降りそそぐとも、怯えはしない
人民戦争は誰をも勇敢にし
いかなる災禍(わざわい)にも揺がぬプーパンのごとく、果敢ならしめる
民衆は偉大、勝利を決するもの
革命の炎は燎原の火のごとく とどまることを知らず
赤旗はプーパンの頂上(いただき)に翩翻とひるがえる
詩・曲 ジット・プミサク
底本:『ジット・プミサク――戦闘的タイ詩人の肖像』
鹿砦社 1980年12月10日発行
水牛公開:2001年7月1日
テキスト入力:八巻美恵
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