CD解説『サティの再録音に』

サティの再録音に

日本コロンビアから3枚のサティ作品集を出したのは1976~1970年だった。

その時は、演奏でなにかを加えるのではなく、ありがちの表現や叙情のない「白い音楽」をさしだすだけにしたいと思っていた。その後コンサートで弾いているうちに弾きかたも自然に変わってきたのだろう。

Robert Orledge: Satie the Composer(Cambridge, 1996) が明らかにしたように、サティの一見素朴なフレーズも、小さなメモ帳のなかで修正を重ねているし、公開しなかったたくさんの曲もそこから見つかって、「遅れてきた中世の音楽家」でもあり、「ミニマリズム」のパイオニアとも言われたサティのイメージも、また変りつつある。

こんど誘われて1枚にまとめた再録音では、貧しいものの音楽、小さなもののつつましさ、ひそやかさ、その息づかいや、鍵盤に触れるその時に生まれる発見から次の一歩が決まるような、どことなく危うい曲り道を辿る、音から次の音へのためらいがちな足どりの、未完の作曲家サティにふさわしい進行中の記録にとどめておきたい気もあった。

ここでは『ジムノペディ』3曲、Christopher Hobbs の編集による『星たちの息子 Le Fils des  étoiles』全曲版 (Experimental Music Catalogue, 2003) から第1幕の最後の7番をあわせた『グノシェンヌ』全7曲、Orledgeがわずかな空白を補った第6番を含む『ノクチュルヌ』6曲、『ジュ・トゥ・ヴ』ピアノ版、それに『サラバンド』3曲と『1866年の3つの歌』のピアノ編曲をはじめて録音した。

高橋悠治