窗のない夢

北村周一

ひき籠るほかなく画家のいちにちは
 暮れるにはやくすでにほろ酔い
みんざいの代替えにしてひとりのむ
 ボトル・キープは自宅を出でず
睡眠力高めむとして寝静まる
 家具のごとくに夜をたのしむ
夜ねむるまえの大事な所作のひとつ
 けっして後ろをふり向かぬこと
切歯にて噛みちぎりたる眠剤の
 片割れがいまのみどに落ちぬ
とり敢えずデパスその一 目覚めたら
 のむ約束のまくらの友よ
追伸2 ソラナックスにしておこう
 深い眠りは枕許より
おもうよりふかいところに根を下ろし
 きょうの不眠は午後のコーヒー
ゆめさめて何思うなき夜ながら
 不眠因子はわれをゆるさず
不眠因子みつけえぬまま夜の深けを
 布の織目に笑まう人面
ねむったままいってしまえば夢心地 
 ずれた布団が少し重たい
細き灯りかべに向ければ夜の淵を
 音なくすすむ秒針その他
ひとり事のごとく一本の道ありて
 見つめるために見つめいるなり
窗のない夢をとけだす雨音の
 増しゆくそれは雨滴(泣きたい)
微睡みからさめつつあらむ夜のあけを
 夢の数だけまもる沈黙