犬狼詩集

管啓次郎

  27

立体視が幽霊を求めている
左目が見る事物の光と右目が見る事物の光のずれが
そこにいないものを呼び出すのだ
互いに干渉する光の縞、島に
奇妙に太った幽霊が住んでいる
青く濁ったファンファーレも聞こえず
隊列には行進のそぶりもない
うすむらさきの空へと子供たちが
動きもなく、音もなく、斜めに登ってゆく
その階段的な傾斜はパイプオルガンと
オルガンパイプ・カクタスの総合
器官を欠いた小さな体と
名も無い残酷な密輸人の化かし合いだ
子捕りよ、盗んだ子らを売るのはやめろ
かつて海だったこの果てしない砂漠の
太った幽霊のまわりで子供たちが遊んでいる

  28

パイプオルガンが幽霊の声を
メタファーとして響かせる
光の舌、炎の舌が
歌いたくて歌えなくてやきもきしている
かれらを手なずけて隊列へとまとめたのが
キリスト教ヨーロッパの最高の独創だった
xとyからなるイグレシアで
声のない群衆が歌の始まりを待っている
「新大陸」の海岸では一連の山並みの
命名権をめぐって代理人たちが口論している
「のこぎりの歯」なのか
「神の指たち」なのか
「パイプオルガン」なのかを決めかねて
光の舌、炎の舌は何の意見もいえなくて
ひどく焦れている、焦れながら
山並みが海嘯のように鳴り出すのを待ちかまえているのだ