きりきり(桜の)舞

三橋圭介

今年は暖冬。桜の開花は例年よりも早く、4月にはもう散ってしまうかもしれない、という報道がありました。ならばと計画はちゃくちゃくがやがやと進み、実行に移されたのです。正確には実行に移されたわけではありません。花を見ていませんから。花は咲いていませんでしたから。でも宴はがやがやともよおされました。

その日、Kさんの顔は空のようにどんより曇でした。桜が咲いていないことは誰の目にも明らかです。会って「桜が・・・」というと、「その話はしないで・・・」とうつむき加減。みんなKさんにその話は禁句でした(ぱっつんの鋭い視線だけは感じていたそうです)。でも最初に輪になって歌う「マルマルマル」のとき、自ら「生まれてはじめて花見を中心となってやったのに、桜が咲いていない〜」とみんなうつむき加減につぶやきました。告白です。心の重荷を少しおろしたかったのでしょう。

しかしKさんはよくやりました。立派でした。彼女はこの日のために、懸命に働いたのです(自らいうところによると「がやがや」の台湾公演よりも力をそそいだそうです)。まず車初心者のKさんはだんなさんをまきぞいに、当日頼んでいる食べ物を取りにいく道順を自転車で何度も予習したそうです。桜が咲くか咲かないかについて、いかにKさんが気をもんだか、想像に難しくありません。

桜は咲かなかったけど、Kさんは見事にその使命を果たしました。車で食べ物を取りにいくとき、私も巧みなその運転を見たくて、「乗せてよ」といいましたが、「免許もってる?」ときかれ、「もってない」と答えると、「役に立たないからダメ!」といわれてしまいました(免許をもっている人に隣に乗ってもらいたかったのでしょう。ぱっつんがその重役を果たしました)。数十分後、「完璧だった」の一声と共に無事帰還しました。わたしたちは窓の外の裸んぼうの桜を横目に、Kさんの武勇伝と悲しみを酒の魚に焼き鳥やおせきはんをむしゃむしゃ楽しく食べました。

花見はできませんでしたが、わたしたちは確実に見たのです。きりきり桜の舞を。この経験はきっと来年の花見に生かされるでしょう。来年もよろしくお願いしますねっ、きりさん。