希望の足

さとうまき

ヨルダンの国境、ラムサに住むイマッドさんは、シリア難民だ。耳を澄ませばバシーン、バシーンと爆発音が聞こえてくる。国境は閉じられているが、けが人だけは、国境を越えてくるので、イマッドさんは、ポンコツのバンを借りて患者を病院やリハビリセンターなどに送り届けている。全くのボランティアだ。そこで僕たちは、毎月500ドルを支払ってガソリン代、車のメンテ代にしてもらっている。うち100ドルはイマッドさんの経費だ。もちろんそんなのでたりるはずはない。シリア難民に群がる援助ビジネスも盛んでNGOでやとってもらったら、1000ドル位は稼げるだろうに、イマッドさんはお金のことなど気にしない。

その日はわけがあってサファウィという町で待ち合わせをしたのだが、僕の方がいろいろ時間かかってしまってすっかり彼を待たしてしまった。彼の車は窓がちゃんと閉まらないのでともかく寒い。そして、止まるたびにエンジンがかからなくなる。ブースターの接触が悪いのかトンカチであちこち叩いているうちにエンジンがかかる。そういうのを3回繰り返してようやくイルビッドのリハビリセンターに到着した。

ここは、シリア人たちが自分らでお金を集めてやりくりしている。イマッドさんは張り切って、ミルクとジュースを買ってみんなに配るという。車椅子で何人かが集まってきた。ナガムさんという女性は、16歳。一年前に結婚した。夫のムハンマドさんは20歳でダラーで農業をやっていた。ミサイル弾が飛んできて彼女の右足は吹っ飛んでしまった。その時おなかの中に7か月の赤ちゃんがいたが、崩れ落ちた瓦礫がおなかにあたって、流産してしまったそうだ。そんな状況だとすっかりふさぎ込んでしまうのだが、夫婦そろって笑顔が絶えない。別にミルクをもらったから大喜びというわけでないのだろう。「どうして、そんなに前向きになれるの?」って聞いてみた。「ここでは、足がないからって特別なことではないんです。ごく当たり前のこと。みんなで助け合っている。神が決めたことだから」とムハンマッドさんが言う。

12歳のムスタファ君。2か月前に、クリーニング屋の前に座っていたらロケット弾が飛んできた。一発とんできたのでみんな逃げたが、2発目にあたってしまった。その場で、右手、右足がもげてしまった。徴兵されるのを恐れ、先に逃げてきた19歳のお兄さんが面倒を見ている。

兄は、ムスタファが怪我したときの動画を見るか? と聞いた。携帯電話の中に入っているというのだ。さすがに本人のいる前で見るわけにはいかないであろうと断るが、「ムスタファは何度も見ているから大丈夫だ」という。その映像は、血まみれのムスタファがベッドに横たわり、右足はぐちゃぐちゃにつぶれていた。右腕を誰かが持ち上げると、皮一枚でぶら下がっていて、それをねじり切ろうとしている。ムスタファは意識があり、起き上がろうとするが、周りから抑えられる。そして悶絶。

このおぞましい映像をムスタファ君は何度も見続けている。しかし、トラウマを抱えているようには見えなかった。名前を書いてもらうが、利き腕を失ったので、上手く字が書けない。それだけではない。「しばらく学校に行ってないから忘れちゃった」と笑っている。将来の夢ってあるのかなって聞いたら、ともかく早く勉強したいと言う。ムスタファは、とても強い子だ。文句ひとつ言わずにほほえんでくれた。

JIM-NETは、2014年、10周年を迎えます。ギャラリー日比谷で、10年を振り返る展示をおこないます。2月14日から19日、イラクの子どもたちの絵やシリア難民の写真などを展示します。
http://www.jim-net.net/event2/2013/12/-1021419at.php
また、バレンタインに向けたチョコ募金、在庫が少なくなってきました。是非早めにお申し込みを。
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