左手の抒情

くぼたのぞみ

右腕が沈黙を強いられ
とにもかくにも左手で
打ちだすキー&キーの
すきまからゆっくり
ゆっくりもれてくる
ぽつりっく ぽつっりりっく
──ヴィレッジヴォイスか
はたと気づく左手で書/描く
東北 北陸
から北へむかって
海を渡った道のはてか
畑か
たちのぼる


桶にひしゃくの
あたる音おとうさんの
軍手が握るるる
長いひしゃくの柄の先に
若いキャベツがならんでて
まだ細い株のうねのあいまには
あたらしい溝が掘られてて


桶にひしゃくのあたる音がぽーん
 おとなしく
 見てるんだぞ
 近づくな
と響くキャベツの芯は固く
握りしめたビスケッッットト
とびきりおやつが湿気ってく
枝からもいだほんのりピンクの
葉つきりんごは
血のにじむ前歯でそのまま齧り
名にし負はばの植民の子に
ピンネシリはすっぱいからね
自己憐憫のシングルの
村のはなし/歴史なら
ぽつっ りく ぽつっり りりっく
抒情にならないからね──と
戸まどうキーが
見えない夜をはじきかえす