114ミジンコ取り――子供の夢

藤井貞和

めっ
叱りするままははたちの声、檜垣を越える
めっ
死ぬな、めっ
叱りする檜垣の女の声がやってくる
子供の夢にはいってくる
ゆめゆめ
古代のままははたちのクチヨセは
五十年を経て
わたしの檜垣の根にうずくまっている
ゆめゆめ
死ぬな、けっして
ままははたちはおしえる、死んではならないのだと
檜垣のそとでわたしはどうすることもならないけれども

(「いじめ」学という領域は、「戦争」学とおなじように、まだ生まれていないのである。代理の母は斗う、世の、心ない「いじめ」から、「わが」子を助けようとして死んだ。地上を支え、地下に浸水し、空中へまぎれいって、代理の母は消える。心ない「いじめ」があとにのこされる。こんにちではめったに聴かれない、「めっ」という叱り声があった。古語の「ゆめゆめ(努々)」〈決して決して〉から来たのだろう。「(だ)めっ」とも言う。山のうえ、水源の、巨神の声が垣のかなたから降ってくる。でも、耳を傾けようとしない這う人たち。)