ケンタック(その3)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子訳

わたしから6メートルくらい先に小鳥がいるのが目に入った。グレイがかったベージュというか何かそのような色調で色鮮やかな点々がある小さな鳥だ。わたしが話している相手の背後に見える。翼が小さいため絶え間なく羽ばたいている。つたかずらの薮や乾いた枝の上の空中の一ケ所に留まっていてどこへも行かないのだ。まるでそこに留まっているために羽ばたいているように。

わたしの知る限りではふつう鳥にはたくさんの種類や種がある。天空を我がもの顔で高くそしてはるか遠くまで飛ぶことができるものもいる。かれらは大きくて強靭な翼と、鷲とか神話上のガルーダのような爪を持っている。この神話上の鳥は鳥類の王で偉大ということだが、小さくふくらんだこの鳥は翼に幅がなく、爪も生きていくために枝や草に停まることができる程度だ。姿かたちは愛らしいが、高く遠くまで飛べる鳥ではなくて、低いところで餌をさがすしかない。

「これはこの辺りにずっと前からいるんだ」と彼は嬉しそうに歯を見せて笑った。
「ここの人たちに慣れていてね、わたしらもこの鳥を可愛がっている。いじめたことはないね」

彼はわたしが訊こうとしていることを察したかのごとくはなしてくれた。ほら、やっぱりだ、まだ同じところで羽ばたいているのが見える。まるで自分はここにいるぞ、と誇っているかのように。それから程なくしてもう一羽が飛んできて仲間になった。二羽は飛びながら次第に近づいている。。

わたしの視線はこの二羽の鳥に集中していたとはいえ、若い女性が二人こちらに向かってやってくるのにも気付いていた。丘のはずれの古ぼけた小屋から歩いてくるようだ。ゆったりと煙がたなびいている。白黒というか、グレイがまざったというか、そんな色調に見える。枝や木の葉か何かが日の光に当たって白く光っているのかもしれない。

若い女性は親しげに微笑みながらわたしの隣に腰をおろした。かすかにいい香りがしてきて、わたしは彼らが気に入った。何も話してはいないけれど、気持ち的に相反するようなところはなかった。想像するところ都会から来た人だろう。騒々しい煩雑な社会を避けて、田舎に隠れ住んでいるとか。自由な生活を求めてとか。愁いをおびた瞳がさまざまなことを語っている。彼らはシンプルで派手なところがない。化粧もしていない。痩せぎすできゃしゃな人形のようで、きつい労働などしたことがないように見える。
(続く)