笠井瑞丈

毎度のことですが
六月に天使館で
行った公演『Q』
それの再演のため
金沢への車移動
松本から飛騨高山

思い返せば
もう何度も通る道
初めて通った時は
雪がまだ積もってた
興奮したことを思い出す

車旅ほど至福の時間はない
全てから解放され自由なのだ
このまま行こうと思えば
どこにでも行けるのだ
目の前にどこでもドア

そんなもう通い慣れた道
道中途中公衆トイレに入る
夜は熊の侵入に注意の看板
よく山道に書いてある脅し文句
どうせ出ないだろうと思い
あまり気にせず用を済ませ
車に乗り込み富山へ向かう

くねくね山道をヘッドライトが
左右に揺れて遠くの道を照らす
川の音と山の呼吸の音が聞こえる
ヘッドライを切れば
全てを飲み込む漆黒の世界だ
もしここに取り残されたらと

思うとゾッとする
文明の利器に感謝

トイレを出て進むこと数分
少し先の道の真ん中に

黒い影
黒い影
黒い影

犬にしては大きしいし
鹿にしては太ってるし

この辺りで鹿や猿を
見かける事はよくある

徐々に車を走らせ近づく

えっ
もしか

ええっ
もしかし

えええっ
もしかして


です

ヘッドライト越しに
こちらに振り向く
車を停め窓を閉め
緊張した時間が

一瞬目が合いノソノソと山に入っていく
人生で初めて野生の熊に遭遇しました

そしてあのトイレに書いてあったことを思い出す
あれは間違えではないということを確信する
今後あのトイレにはしばらく入れないであろう
やっぱり山を舐めてはいけない

しかしよく考えてみると
ここは熊の領域なのだ
我々がここを通らせてもらってる
だからもっとここを通る時は
山の動物たちに敬意を払わなきゃいけない

忘れていた事を思い出す感じだ
ここはみんなの場所なんですと

人間と動物がともに共存する
もっともっと良い世の中に
なっていくことを願うばかり

チャボさんたちは今日も元気
僕は本当に愛に包まれている
いつもありがとう