アパート日記 10月

吉良幸子

10/4 金
10月に入り、出稼ぎで着る単衣をやっとしまう。そろそろ同じ着物に飽きてきてたからちょうどええ。朝家出るのが早朝過ぎて最近は真っ暗。薄ら寒いから道行を羽織って行く。ようやく秋になってきた。

10/6 日
神田紅純さんの会へ公子さんと向かう。両国ってちゃんこ鍋屋さんいっぱいでおもろい。今回はお相撲さんの卵みたいな方が歩いてなくて残念。紅純さんの講談は北斎の噺がおもろかった。素晴らしく汚い!という北斎の部屋、見てみたいもんやわ。

10/8 火
出稼ぎの後に末廣亭の真打披露興行、今日は伝輔さんトリの日。早めに行って時間つぶしに世界堂でぶらぶら。出稼ぎの帰りやし着物やったんやけど、外国の方に綺麗ね、と声をかけられた。センキューと返したら、どこで買ったの?と聞かれ、久しぶりの英語にあわあわした。もはやカタコトの英語でこれはもらったものなんやけど、近くにリサイクル着物の店あるでと伝えたら喜んではった。世界堂から目と鼻の先やし行ってみてくれてたらええなぁ。
今日の寄席で甲賀さんの文字の幟が上がったら太呂さんが写真撮ってくれる予定やった。けど雨で幟は一本も上がらず残念。中に入っていつもの桟敷席へ。途中から伝輔さんの御贔屓、くみまるさんも合流した。朝からばたばたで朝ご飯のお弁当が食べられず、中入りでお弁当を頬張る。何も食べてへんかったしうまい!公子さんが、腐ってない!?って心配してはったけど、腹も強いし大丈夫やった。終わってから外出たら伝輔さんが出てきてはって、今日はみんなバラバラに座ってはりましたね!と。口上の時喋られへんから客席よう見るねんて。各々好きなとこに座ってたから、あっちにもこっちにもおるって感じやったやろなァ。

10/15 火
経堂で第一回しらかめ寄席。神田紅純さんが出演で、しらかめのおかみさんが絵を描くし、この前両国で聴いた北斎の噺をやってくださった。お店が小さいから10人くらいしか入らんのやけど、講談の後に最高においしいつまみとお蕎麦も出てきて、お客さんも紅純さんと話せるし、みんな楽しそうで幸せな夜やった。

10/17 木
出かけようと駅へ向かう途中、うちから一本駅寄りの道沿いにあるお宅からソラちゃんが徐に出てきた。思わずソラちゃん!と呼んだけど、おや、その名前で呼ぶのは誰ですか?ってなすまし顔で振り返ったっきり、とっとこと歩いていってしまった。別宅猫め!知らん顔しよって!!と帰ってから公子さんに報告。その後、うちへ帰ってきたソラちゃんは猫撫で声で甘えん坊、会いたかった~って感じ。ほんまに別人やで。体の匂いを嗅いだら金木犀の香りが。そういえばその別宅、金木犀がきれいに咲いてるわ。

10/20 日
お引っ越しした祥二さんとよしえさんちへお呼ばれして行く。駅からもそんなに遠くないし、素敵なおうちやった。この前お会いした時は車椅子やったよしえさんが、歩いて迎えに出てくださってびっくり。白髪のボブがよくお似合いでかわいい。いつも服やらアクセサリーやら色々いただくのやけど、今回もなんじゃかんじゃたくさんくださった。自分も少しもらって、後は周りの似合う人に渡していこうと思う。帰りは直帰や!と言うておったのやけど、おふたりとも元気やって嬉しいしやっぱり一杯飲もか!!と焼き鳥屋へ行く。酒もおいしいしアタリやった。ほろ酔いで公子さんと帰る。杉並はええなぁ、駅前に面白さが残っておって。

10/22 火
友達と田中一村の展示へ。ほんまはモネに行こう!と言うてたんやけど、あまりに人が並んでて断念。一村も結構な人の入りやったけど、人の波をぬってゆっくり観た。膨大な習作と作品群と、途中で感動して泣きそうになった。一村の絵には見る人を圧倒する説得力がある。一緒に行った友達は絵描きやし、二人とも大いに感化されて美術館を出た。お昼食べて世界堂へ。絵描く人と行く世界堂はひとりで行くよりもおもろい。ああ、あんな絵、描きたいなぁ!

10/24 木
中野で蒲田育さんの展示、『寄席へようこそ』へ行ってみる。育さんは末廣亭でお茶子さんしてるだけあって芸人の所作の絵がむっちゃうまい。寄席の楽しさが伝わる、生き生きしたええ絵たちやった。その後、駅前で待ち合わせて公子さんとまことさんと一緒に兼太郎さんの会へ。落語はええねんけどなぁ、まくらが長ーくて集中が切れる!

10/26 土
故郷の味、丹波の枝豆が届く。今年は例年にない不作の年で、全然取れんしできも悪いから東京の知り合いにも配られへん。いつもおかあはんが買いに行く大きい農園でも売る程ないと言われたらしく、友人に無理言うて分けてもらってそれを送ってもらった。確かにサヤがやけに分厚くて例年に比べて食べにくい。色も悪いしほとんど黒豆になってる感じ。そんなんでも、年に一回の国の味。もりもりとありがたくおいしくいただく。

10/31 木
ソラちゃんの最近のお気に入りは私の膝の上で寝ることらしく、帰ってきたら、膝貸せ!何寝てんねや!ってな感じでにゃあにゃあと呼ばれる。おまけに寝る時間も伸びて小一時間は膝の上。腰は痛なるしやることなくて私は暇。ノミ取りしてみてもぐっすり。かわいいしむっちゃあったかいねんけどね、家の中で他に寝るとこ作ってほしいわ。そんなこと言いながら酒呑んでたら眠たくなってひとねむり。日記が書けてなくて仮眠のつもりやってんやけど、ソラちゃんが外からにゃおにゃおと帰ってきた。半分寝たままソラちゃんを家に入れると、おれ、布団入ってみようと思うねん…と入ってきた!深夜に膝貸すよりええわ!と歓迎する。ほしたら意外にもぐっすり寝てしもた、普段からこれにしてや!
そうこうしていると明日の朝ごはんのお弁当を作るのに公子さんがミッドナイトキッチンで起きてきはった。公子さんが台所に立ってると、椅子の上で監督するのがソラちゃんの趣味。眠たそうに行かなくちゃ…と台所へ。その間にしめしめと私も起きて残りの日記を書いてたら、椅子に座ってる私を発見したらしい。座ってんやったら膝貸してや、とまた膝上で寝だした。公子さんは知ーらない!とベッドへ。日記はもうほとんど書き終わってんねんけどなぁ…。